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第二十三 自白の心理学的分析に関する原決定の誤り

         

一 原決定は,浜田意見書の説くところが1つの仮説として以上には認められないとしてこれを却けている。
 浜田意見書は,時間的経過に従って変遷していく供述を1つの全体として捉え,その供述変遷を心理学的に了解できるか否かの検討を行い,供述の真偽を判別しようとするものである。請求人の逮捕されて以降の75通の全供述調書を,否認期(T)−3人犯行自白期(U)−単独犯行自白期(V−a)−単独犯行自白期(V−b)の4つに分けて分析し,その結果,このT→U→Va→Vbという供述の大変遷の過程は,真犯人が取調官の追及に屈して,徐々に真実を吐露せねばならなくなった過程ではなく,むしろ反対に,無実の人が否認に徹しきれずに,自ら犯人に扮し,「自分がやったとすれば」の仮説の下に,犯行筋書を演繹したものの,種々の矛盾に逢着して,この仮説演繹を二転三転せざるをえなかった過程であることが証明された。
 そして,大変遷に呼応して個々の供述にみられる小変遷も,取調官から突きつけられた証拠・情報・推測によってひとたび仮説演繹したものが,他の証拠の情報と矛盾するがゆえに,理屈のうえでこれを修正せざるをえなくなって,次々と変遷していったもので,体験者が,その体験にそって供述したものではないことが明らかになった。
 浜田意見書の方法は,自白調書の検証にあたり自白の嘘の分布が真犯人の嘘の分布であるという仮説と無実の人間の嘘の分布であるという仮説と二つの仮説を立てた場合,いずれがよりよく説明しうるかの判別が可能であるということを前提としている厳密に学問的な方法である。原決定が理由にもならない理由で浜田意見書の「嘘分析」仮説検証の方法と本件への適用を安易に却けたのは優れた学問的方法を軽視するのであって,理由不備の違法を免れない。

二 原決定は,また山下意見書も却けているが,その理由は原決定の考える同意見書の前提 − 犯人は合理的な行動をとり,行為を的確に供述するものである −が常に成り立つとは言えないとする。
 山下意見書は,不自然性の有無についての心理学的検討を主軸に自白の信用性を分析したものである。@人間の行動法則や犯行時心理に反する自白A認知や記憶の法則と矛盾したり,行動の意味が不明な自白B人格や個性とかけ離れた行動を内容とする自白C同一人物の行動として一貫性のない自白を,不自然性の指標とし,動機,事前準備,犯行実行過程,盗品等の処分といった犯行の全体にわたって,請求人の自白どおりに犯行を再現する実験などもふまえ,請求人の自白に信用性があるか否かの分析をしたものである。
 その結果,請求人の自白は,人間の行動法則,犯行時心理に著しく反しているばかりでなく,真に体験した人間であれば当然認知しているはずの多くのものを見落としていたり,記憶しているはずの多くのものを見落としていたり,記憶しているはずのものを覚えておらず,自分のなした行動の意味を説明できないなど,認知心理学あるいは行動心理学などからみて理解できるものではないことを明らかにした。
 山下意見書は供述についての不自然性の有無の心理学的検討を主軸に,自白の再現実験をも含めて自白の信用性に関する総合的な分析を行っている。その説くところは学問的に裏付けられるとともに一般実務の感覚にも適合していてその証拠価値は高い意見書である。これをたやすく却けた原決定には理由不備の違法がある。

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