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原決定は,京都大学工学部助手荻野晃成作成の昭和50年12月20日付筆圧痕に関する鑑定書および弁護人中北龍太郎・大野町子作成の昭和53年5月23日付筆圧痕確認報告書について,確定判決の依拠する関係証拠と総合評考察しても,確定判決の事実認定に合理的な疑問を生じさせるまでの具体的内容をもつものとはいえないとした。
しかしながら,確定判決の依拠する上野・宮内鑑定は,供述調書添付図面のあくまで一部に限って,鉛筆線より先につけられた筆圧痕はないと結論づけているのであって,上記鑑定の対象外となった図面に鉛筆線より先につけられた筆圧痕があるかどうかは,未だ未解明である。これを解明することなしには,筆圧痕をなぞって図面を作成したことがあるとの請求人の第2審公判廷での供述を虚偽と結論づけることはできない。
そこで,請求人は,改めて再鑑定が必要だと力説し,これを解明する方法として荻野鑑定書の提起する方法を提案し続けてきたのである。
荻野鑑定は,薄い筆圧痕と鉛筆線との前後関係を鑑定する方法として,@走査型電子顕微鏡による供述調書添付図面表面の高倍率の精密観測法,A低倍率観測及び消しゴム試験,鉛筆粒子の濃度分布測定,断面測定法により中抜け現象の有無を確認する方法が有効であることを明らかにしたものである。
ところが,原決定審は,請求人の再鑑定請求を採用しないまま原決定を下した。
原決定は,その中で,請求人の主張とその提出にかかる証拠に対し,「一つの方法論を提示するにとどまるもの」と判示しているが,荻野鑑定の科学的方法を否定する理由として成り立たっていない。
また,上記の点を解明することなしに,請求人の自白には誘導された部分があるとの請求人の主張を排斥し,また前記請求人の公判廷供述が虚偽であり請求人は意識的に虚偽を述べたと結論づけられるものではない。弁護人中北他報告書は,請求人の供述調書図面中に,第2審第5回検証次時に発見されなかった「薄く浅い」形状の筆圧痕が存することを確認したものである。原図面に加工が加えられること自体,異例である。請求人の供述調書添付図面の中に捜査官があらかじめつけた筆圧痕をなぞって書いたものがあるということは,請求人の自白に任意性・信用性がないことを証明するものである。にもかかわらず,原決定は,筆圧痕をなぞって作成された図面はない,請求人は公判廷で意識的に虚偽供述をしたとの確定判決を維持した。この点の誤りは,一点の疑う余地もなく明白である。
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