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第二十 佐野屋付近での体験事実についての原決定の誤りについて

              

 原決定は,身代金喝取の目的で佐野屋東側畑に赴き,N・Tと問答を交わした後逃走したという請求人の自白が虚偽であることを,視覚的認知の状況から解明した慶應義塾大学講師増田直衛作成の昭和58年10月12日付鑑定書(以下増田鑑定と簡記する)と,発生音を聴取できるかどうかという立場から解明した東洋大学講師藤井弘義・小林總男作成の昭和58年10月12日付鑑定書(以下藤井・小林鑑定と簡記する)にたいし,「一般に,真犯人でなければ認識し得ない事象を記憶していて,後に捜査官に対して,これを的確に再生して供述する場合がある反面,真犯人であれば当然自分の行動にまつわる周囲の状況の詳細を認識,銘記しており,自白する以上は,捜査官の取調べに対して,その記憶どおりに率直に供述するはずであるとは,必ずしもいえない」として,両鑑定の結論を否定した。
 ところで,被害者の姉・N・Tの司法警察員にたいする供述調書によれば(昭和38年5月3日付),請求人が佐野屋東側畑に潜んでいたと供述している時間帯に,佐野屋の前の川越街道をN・Tの他にもバイク(スーパーカブ),自動車が通行していることが認められる。また,1審におけるM・H証言,山下了一証言によっても通行人があった事実は裏付けられている。
 また,N・Tと問答した際の状況についての請求人の自白は,ある程度の一貫性と具体性をもっているのであり,「小母さんのような人が来て」「小母さんは白っぽいものを着ていました」「女の人の横の方に誰か男が立っているように見えました」「私は女の人の姿はみましたがその時の明るさは男か女の見分けがつく程度の明るさであったので」「身の丈は私位と思いました」「女の後にもう一人誰か居る様だったので」という請求人の自白が,「推定照度値よりも高い照度での認知実験においても,対象が動いた場合でなんとか人間の姿・形が認められる程度であり,性別の認知はできなかった」という増田鑑定の結果と矛盾をきたすことについて,原決定はいかなる合理的な理由も示せていない。
 増田鑑定は,「請求人の自白の位置から通行者(徒歩,自転車),バイク,自動車についてまったく気がつかないということは考えにくい。自転車のライトのように,自ら光を放つものが移動しているとしたら,自動的にこれらに注意が向けられると考えられる。また,特にバイク,自動車は明瞭に聞こえる音を発していたと考えられ,当然,反射的に音源に視線が向いたと考えるのが自然である」と結論づけており,藤井・小林鑑定では,「請求人のひそんでいたとされる位置すなわち音源より5mないし10mの受音点にいた請求人が正常な聴感覚をもっているとすれば,自動車,バイク,自転車の走行音は十分に認識し,音の区別が出来たものと考えられる。(略)極度に神経を集中して警戒をしている状態であるとすれば,人間の歩く音についてはジャリ等と靴との接触による特異音であるかどうかは認識出来た」との結論に達している。
 増田鑑定は視覚の点から,藤井・小林鑑定は聴覚の点から,いずれも佐野屋脇に犯人が現われた状況について,厳格に状況を再現したうえで厳密な科学的方法により実験を行ったものである。増田鑑定ならびに藤井・小林鑑定の結果は,自白の非体験性,虚偽架空性を科学的に明らかにしたものであり,「請求人の自白の信用性を疑わせるものということはできない」とした原決定の誤りは明らかというべきである。
 なお,「自白する以上は,捜査官の取調べに対して,その記憶どおりに率直に供述するはずであるとは,必ずしもいえないのであり,本件においても,請求人が佐野屋前の県道の通行車両や通行人には気付かなかった旨述べているからといって,そのことから直ちに,それが犯人ではない者の行った内容虚偽の供述であるということはできない」との原決定の判示は,請求人にダブルスタンダードを強いるものであり,きわめて卑怯な論法といわざるをえない。

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