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第十八 腕時計に対する原決定の誤りについて

         

 原決定は,「本件腕時計が被害者のものであることは,兄,姉の前記のような確認の結果により明らかであるばかりでなく,関係証拠によれば,押収にかかる本件腕時計とは別に,業者から借りて品触れに写真入りで掲載された商品名コニーのシチズン製金色側女持ち腕時計そのものが存在する」と判示した。
 しかしながら,被害者の兄Kは,原1審7回公判において検察官から発見時計を示されて被害品との同一性について確認を求められた際,概括的に「間違いないように思います」と答えたのみであり,弁護人からどの程度断言できるかと迫られた際には,物としての同一性については一言も述べず,被害者ないし被害者方を中心とした該時計の普及度をもって答えるというすりかえを行っている。姉Tもまた,同一性については概括的に「間違いないと思います」と述べるのみで,特に見覚えがあるところがあるかとの質問には沈黙しているのである(原1審7回公判)。
 公判廷における供述は,Tと被害者が共用していたところ,姉妹の手首回りの相違からバンドに2つの大きな穴があいていたことと発見時計のバンドにある2つの大きな穴との一致ということが中心になっており,原決定も「姉Tの確定判決審での証言によれば,これを試着してみたところ,バンドの大きくなっている穴2つのうちの,内側の穴(手首の細い方の穴)に止め金を通したとき,自分の腕に丁度具合よく合致したと述べている」のであるから,「O・Mにより発見された本件腕時計は,被害者の持ち物であることは明らかというべき」と判示した。しかし,上記バンド穴による特定については,使用頻度が少ない姉が使っていたバンド穴の方が痕跡が著しいという矛盾が生じている。5・4員関口邦造作成の実況見分調書添付写真(2冊530丁)によれば,当時Tは他の腕時計を使用していたことが認められ,被害者兄Kの7・6検面調書によれば,同人は昭和37年3月24日男物1個,女物2個の腕時計を購入しており,かつ同人は原2審60回公判において,当時2個の女物があって,Tと被害者が1個宛所有使用していた旨述べており,本件前からTが自分の腕時計を持っていたことは間違いないところである。かかる事実からすれば,Tが妹の腕時計を借用したということは,何か特段の事情でもない限り不自然な話であるが,被害者兄Kは上記公判において弁護人からの尋問に対して上記の点に何も説明しえておらず,Tが妹のものを借用したかについては疑問が残るのみならず,事件の年の3月中旬以降はもっぱら被害者自身が使用していたというのであるから,被害者使用の穴の方がむしろより明瞭な痕跡を残していなければならない。以上の論議はすべて本件時計のバンド穴が2個続けて大きいという被害者兄Kらの供述を前提にしているが,上記バンドにおいて使用された穴の痕跡ははたして2個だけなのか,同2個のみが截然と他から区別されうる程大きいかについては,証拠自体を見たときにそもそも疑問が生ずるのである。これを要するに本件バンド穴には,同一性を確認し得るほどの特異性は存しないということである。
 新証拠である員遠藤三外1名作成の捜査報告書が明らかにした見本時計借り受けの経緯は,発見時計との型の相違を浮き彫りにしたのみならず,その関与者自身がコニーとペットで相違をきたした原因が他人の誤認にあったかのようにいいなし,型が相違していることは意識にすらのぼらなかったのであるから,上記関与者自身およびその近親者による同一性確認には致命的な弱点が潜んでいたことを明らかにしたのである。その反面本件発生後間もないころの,予断の生じる余地のなかった5月8日の時点で,複数の買受関係者が捜査官の依頼によってコニーを被害品との同一品として特定し,これに基づき特別重要品触書が作成配付されている事実は,むしろ被害品はコニーであってペットではないこと,還元すれば,発見時計は被害品ではないことを指し示すのである。
 また原決定は,具体的な理由は示さず「関係書類から認められる本件腕時計の発見現場の状況に照らし,先に大掛かりな捜索が行われながら発見できなかったことは,必ずしも不自然な事態とはいい難い」と判示した。
 本件腕時計は,請求人が捨てた旨自供した地点近くの茶株の根元に捨てられていたところを,7月2日,通行中のO・Mによって発見されている。発見に先立つ6月29日,30日の両日にわたり7〜8名の捜査員がくまなく捜索しているのであり,78歳の老人にたやすく発見された物が,目的意識をもち時間をかけて捜索したプロの捜査員らに発見されなかったことを説明するに足るいかなる事情も見いだし得ない。確定判決も「殊更捜査員が茶株の根元を捜さなかったとは考えられない」と判示しているのであり,捜索の範囲・方法からみて,本件腕時計を発見したO・Mよりも捜査員の方がより注意深く捜したことは明らかで,その逆はあり得ない。捜索時に本件時計が発見地点にあったとすれば,捜査員が見落とすはずはないのであり,捜査員らが捜索した際に発見されなかったとすれば,その際には存在しなかったものと考えるのが自然かつ妥当である。原決定の誤りは明らかである。

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