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第十二 スコップに対する原決定の誤りについて

            

 原決定は,「星野鑑定書はそれなりに確定判決の認定を裏付ける証明力を有するというべきであり」,本件スコップが犯行に使用された「蓋然性は高いということができ,その意味で本件犯行の物的証拠の一つと認められる」としている。
 しかし,付近一帯の土壌は広く関東ローム層が積み重なり覆われているものであり,これらの土壌が相互に類似していても,判示のスコップが死体埋没のために使用されたものとは,とうてい言えないものであることは,あらためて言うまでもないところである。
 星野鑑定の手法は,スコップ付着土壌や死体埋没付近の土に種々の検査を実施して,その結果の記録はあるものの,肝心の類似性,異質性の判断のメルクマールについては何らの基準を示さないもので,無意味な作業報告であった。
 和光大学教授生越忠作成の昭和50年8月25日付鑑定書は,星野鑑定が,その鑑定方法に致命的な欠陥があり,誤った鑑定結果を導き出していることを明らかにしたものである。すなわち,土壌分析の第1の基準は,砂・シルト・粘土の重量構成比であるのに,星野鑑定はこの点を無視し,「スコップに付着していた土壌」と対照資料とした「死体埋没土壌」とは,星野鑑定の諸検査の数値は両土壌が異質のものであることを示しているのに,「類似性が高い」との誤った結論に至っているのである。さらに,生越鑑定は,スコップに関する土壌採取報告書(星野正彦作成)に記載された死体埋没現場付近において,西側断面図(同報告書添付第1図)のような土壌分布がありうるか,という点についても,「報告書添付第1図のような断面を呈する地層が,同報告書に記載された場所(「死体埋没場所付近」とされている場所)に存在することは,あり得ない」ことを明らかにしている。
 また,昭和52年4月18日付生越鑑定補充書は,上記生越鑑定をさらに詳しく解説したものであり,星野鑑定記載のTPとVE・Fとは,@器械分析の結果が互いに著しく相異する,A砂分の重鉱物組成も互いに著しく相異する,という2点について,補足して解説したものである。星野鑑定に示された諸検査結果を忠実に解釈すると,「同鑑定書がいうような鑑定結果とは正反対の内容の鑑定結果を出さざるをえない」こと,すなわち他の場所を掘ったときに上記の土壌が付着したものと考えるほかなく,かえって本件スコップは,死体埋没に使用されたものでないことを示すことになることが明らかにされている。星野鑑定は「それなりの証明力」さえ有しないことは明白である。
 そもそも本件スコップが請求人に結びつく証拠とされたのは,「夜間これらの犬に騒がれることなくスコップを持ち出すことができるのは,I方の家族か,その使用人ないし元使用人か,I方に出入りの業者かに限られると推認され」(上告棄却決定)と判断されたからであるが,これに対し,犯行当日の夜,I方豚舎の犬が吠えたというT・Kの検面調書によって,この判断の不当性・不合理性は明らかとなっている。
 これらの点については,各審理の段階を通じて明確な判断が下されていないことを指摘しておく。

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