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第六 血痕等の痕跡の存否についての原決定の誤り

               

 原決定は,本件被害者の後頭部裂創からの出血量について,「本件頭部裂創から多量の出血があって,相当量が周囲に滴下する事態が生じたはずであるとは断定し難い」としている。
 しかしながら,原決定が援用している五十嵐鑑定書添付の写真には後頭部裂創の頭毛は,血のりによって数本ないし十数本が一塊となり,その上に土砂が付着しているような状態を呈している。上山第2鑑定書が述べるとおり,急性窒息死の場合は,顔面・頭部の血液量が増量し,チアノーゼが発生し,したがって頭皮内面の血液量も多量となっているはずのところ,本屍については,五十嵐鑑定書の剖検所見によると,「頭皮を式の如く横断開検するに,その際流動性血液を殆んど漏らさず。」と記載されている。頭皮内面の血液量が多量となっているどころか,残存している血液量がきわめて少ないことを窺わせる。また,顔面の鬱血やチアノーゼが高度とは記述されていない。急性窒息死のさいの一般的所見と本屍における上記所見との矛盾を説明するには,上山第1・第2鑑定書が述べているとおり後頭部裂創からの血液の多量の流出を想定するほかない。原決定も,そこで援用されている石山鑑定書も上山鑑定人指摘の上記頭皮についての剖検所見の成因について触れるところは全くない。原決定は,石山鑑定書の見解,すなわち「後頭部の裂創からの出血はすでに凝固していた可能性が強く,この状態を加味すれば,血液痕が殺害現場や死体隠匿場所に検出されないこともあり得ることと考えられる」「急性窒息死の死体においては,死体血は流動性であることは知られているが、急性死体の血液自体は,死後2,3時間は凝固能力をもっている。急性死体の血液は凝固系の能力が自然消滅するのではなく,線溶系の活性上昇により死体血管の中で凝固(不完全凝固)を開始した凝血塊が溶解することによって生ずるものであ」るという見解を援用している。しかしながら,急性死体において血液の凝固能力が失われないとしても,一方で凝固系因子が活性化して血液の中のフィブリンを凝固させる半面,他方ではフィブリンを溶かす線溶系因子(線維素−フィブリンのこと−溶解性の酵素系)も急速に活性化して,凝固を押し止め,血液を流動性にするという機構が働いている。したがって急性死の場合にも血液中の凝固系印紙が活性化するとしても,通常の場合のような凝固が起こるのではなく,石山鑑定書の記載のとおり一時的に不完全凝固が起こり得るに過ぎない。この不完全凝固によって,後頭部裂創からの出血が妨げられるか否かについては,凝固がどの程度不完全か知るすべがない以上,結局のところ外表所見と内景所見を総合して全体的に判断せざるを得ない。したがって,五十嵐鑑定の剖検所見に基づく頭皮内面の血液量という客観的状況その他に照らせば,やはり後頭部裂創からの出血が多量であったものとせざるを得ないのである。石山鑑定書によれば,急性死体の血液自体は,死後2,3時間は凝固能力をもっているとのことであるが,自白のとおりの死体処置,すなわち芋穴への逆さ吊りがなされた頃は,すでに死後の凝固能力残存時間を大幅に経過しており,流動血が芋穴の底へ滴下していたものと考えられる。頭皮内面の血液が少量であったことは,後頭部裂創が生じた部位における凝固がその後の出血を止めたという推測を許さない。石山鑑定書および原決定が五十嵐鑑定書の上記剖検所見を看過したため,出血量が少量であったとの誤った判断に陥っているのである。
 以上の結果,本件犯行現場や死体隠匿場所に血痕が発見されなかった事実もまた自白が真犯人でない者の虚偽自白であることを示すものである。

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