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12 最高裁判例及び法令の違反の主張についての原決定の誤り

 原決定は,「所論指摘の最高裁決定は,『いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は,多分に鑑定人の経験と感(勘)に頼るところがあり,ことの性質上,その証明カには自ら限界があるとしても,そのことから直ちに,この鑑定方法が非科学的で,不合理であるということはできないのであって,筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と,その経験によって裏付けられた判断は鑑定人の単なる主観にすぎないもの,といえないことはもちろんである。したがって,事実審裁判所の自由心証によって,これを罪証に供すると否とは,その専権に属することがらであるといわなけれぱならない。』と判示しているのであって,いわゆる伝統的筆跡鑑定について,所論指摘の事例に限って証拠能力を認めたものでないことはその判文上明らかであるから,所論は前提を欠くといわざるを得ない。」とするが,これは問題のすりかえであり,誤りである。
 弁護人らの指摘は,前記最高裁決定にかかる事案と違って,本件は,漢字を書く能力が極端に乏しく,よって手本の漢字を筆写(模造)した筆跡についての筆跡鑑定であって,伝統的筆跡鑑定の証明力についての本質的限界,危険性にとどまらず,本件については,より客観性を担保するための鑑定作業が必要であったのであり,国語学上の比較,筆記能力の程度についての専門的知見による鑑定作業が必要な場合にあたるというのである。
 そして,確定判決審において,前記3鑑定にたいして,戸谷鑑定人が,「本人が学歴低く日常字を書くことのないグループに属する者であることを考慮するとき,…同一人と直ちに判定することには理論的に同意しがたい」と指摘し,国語能力,書字能力の観点から請求人には本件脅迫状が書けたとすることに合理的疑いがあることを指摘する大野鑑定,磨野鑑定,綾村鑑定も弁護人より提出されていたのであって,なおさら,筆跡鑑定の合理性・客観性が問われていた。にもかかわらず,前期最高裁決定をただ引用するのみで,3鑑定の信頼性を一方的に支持し,客観的証明力をもたない3鑑定を有罪証拠の主軸とした確定判決は,自由心証の範囲を越えるものであって許されないと主張しているのである。
 まさに,筆跡鑑定においては,指紋などと比較して鑑定人の評価の相違が著しいといわれ,3鑑定の1つの鑑定人である高村巌鑑定人がかかわり,クロの筆跡鑑定が出され1,2審で有罪とされたが,その後真犯人が判明したというケースもあることを十分にふまえなければならない。刑事鑑定全体に言える事であるが,とりわけ筆跡鑑定において,裁判所が公平に鑑定評価をおこなわなければならないのであって,確定判決のように,本来厳密に検討されなければならない国語学的比較をせずに,伝統的筆跡鑑定をただ前記最高裁決定を引き写すだけで支持することや,原決定のごとく,弁護側鑑定にたいしては,「書字の条件」によって指摘した相異を認めず,「書字の条件」を考慮していない3鑑定が信頼できるとすることは明らかにダブルスタンダードであって,予断禁止原則に反し,証拠評価を誤ったものと言わねばならない。確定判決および原決定は,自由心証の濫用として最高裁判例および法令違反を犯している。原決定を取消し,すみやかに再審が開始されるべきである。

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