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11 神戸第2鑑定書の新規明白性と原決定の誤り

 弁護人が,原審において提出した元京都府警本部文書鑑定主任・神戸光郎作成の鑑定書(以下「神戸第2鑑定書」という)は,確定判決が依拠した3鑑定が,本件脅迫状について,「筆跡が自然の状態で表現されている」「文字の形状構成,筆致等に作為性はない」などとしていることに対して,確定判決は,自白をもとに「漢字をあまり知らない者が手本から漢字を拾い出して書いた」と認定しており,その自白のように,字が書けないので手本を見て書いたとすれば,筆跡が「自然の状態で表現されている」ということにはならないと指摘するとともに,脅迫状の作為性を指摘し,ひいては,それらの点を考慮していない「3鑑定は適格性(信頼性)はない」と指摘している。
 それに対して,原決定は,「3鑑定においては,神戸第2鑑定書が指摘する請求人の供述調書は鑑定資料になっていないのであるから,3鑑定が同供述調書を考慮していないのは当然であって,3鑑定が同供述調書を考慮していない点をとらえて鑑定書としての適格性に欠けるというのは,相当でない。」と判示する。しかしながら,「鑑定資料になっていないのであるから考慮していないのは当然で適格性に欠けるとはいえない」などという原決定の判示は,確定判決の依拠した3鑑定をただ擁護しているだけで居直りというほかない。3鑑定のうちの関根・吉田鑑定,長野鑑定は捜査側の鑑定であり,自白が得られた後に,再度鑑定し直すことも可能であり,また,それが自白の信用性を検証することにもつながったはずである。本件において,捜査当局がそのような自白を考慮に入れて再鑑定するなどして筆跡鑑定の適格性,信頼性を担保しようとしなかったことこそ,捜査が自白依存の予断に満ちたものであったことを示している。
 また,原決定の判示によれば,供述調書を援用して,「漢字を知らないから『りぼん』から漢字を拾い出して脅迫状を作成した」と認定し,「被告人が何らかの資料を見て書くこともあり得ることを無視したとする弁護側の大野鑑定等をしりぞけた確定判決の判断も相当でないと言わねばならない。
 つづいて,原決定は,「神戸第2鑑定書は,請求人が手本とした『りぼんちやん』にはこのような当て字は1つとして見当たらないから,そこに浮かび上がってくる作為性に照らして,本件脅迫状の筆者の書手能力は,相当高度であったと鑑別するのであるが,請求人は捜査段階において,『りぼんちやん』から仮名の付された漢字を拾い出して使用した旨供述しているのであるから,同じ又は近い音のところに漢字の当て字をすることも不自然ではないのであって,同鑑定書の指摘は当を得たものとはいえない。」と判示する。しかしながら,原決定は,一方で,当時の請求人の書字・表記能力は上申書に見られるような状態ではなく,暢達な「関宛手紙の域」としているのであるから,そのような請求人が,「同じ又は近い音のところに漢字の当て字をすることも不自然ではない」とすることは自家撞着をおこしているといわねばならない。
 確定判決は,請求人の上申書や供述調書添付図面では漢字があまり使われていないが,脅迫状には『りぼん』に出てくる漢字が「本来の用法には無頓着に多用されている」ことをもって,「漢字の正確な意味を知らない」請求人が脅迫状を手本を見ながら作成したものだと認定したのであった。
 原決定は,ここでは確定判決の認定に近づいているが,これは,ただ神戸第2鑑定が指摘する脅迫状の「作為性」を何とか否定しようとしたためである。
 いったい原決定は,当時の請求人が「漢字を知らず手本から漢字を拾い出して無頓着に当て字に使った」と判断しているのか,筆跡の渋滞や筆圧の強さは常態ではなく,「ある程度の国語能力を蓄積していた」というのか,その場その場で弁護側鑑定をとにかく各個撃破するために,使い分けているとしかいいようがないのである。
 結局,原決定も原原決定も,『りぼん』を手本にして脅迫状を書いたとの自白の信用性を積極的に認めることができなくなっているのである。そのため,神戸第2鑑定(弁護人提出の日比野鑑定も指摘するところであるが)が,本件脅迫状が明らかに手本(活字体)をまねて書いたとは考えられない顕著な筆勢を指摘し,自白に対する疑問を明らかにしたのに対して,原決定は,「本件脅迫状自体から手本等を無視したような筆勢が顕著であると判断する根拠が十分説明されていない」としてしりぞけている。だとすれば,長年文書鑑定にたずさわってきた神戸鑑定人の尋問をおこない説明を聞くべきであって,専門的知見ももたない裁判官が鑑定人尋問もおこなわず,「十分説明されていない」として一方的に弁護側鑑定を否定するようなやりかたは許されない。
 また,原決定は,「請求人は,捜査段階において,「『りぼんちやん』という漫画の絵本を見ながら漢字を探して字を書き,3枚位書きくずして4枚目位に書いたのがYちやんの家へ届けた脅迫状です。」,「雑誌から書き出した漢字は20字か30字位書き出し,手紙に使わなかった漢字も相当ありました。」と供述しているとして,「本件脅迫状を書く時点で『りぼんちやん』から拾い出した漢字をどの程度スムーズに書けるようになったか」「同雑誌を見ながらその漢字をまねて本件脅迫状を書いたかどうかは明らかでないから,同鑑定書の指摘がそのまま当てはまるものとはいい難い。」とするのである。
 これも,『りぼん』を見ながら書いたという自白の信用性を問題にしているとき,自白内容は厳密に特定できないから自白は信用できるというのと同じであり,本末転倒というほかない。原決定は,「3,4枚書くうちに知らなかった漢字もスムーズに書けるようになったかも知れない」というのであろうか。だとすれば,2,3カ月もあれば飛躍的な上達を遂げるであろう。原決定の判示はご都合主義でしかない。
 さらに,原決定は,「雑誌を見ながらその漢字をまねて書いたかどうかわからない」というが,漢字を知らない者が雑誌から漢字を拾い出すということはルビを頼りに漢字(雑誌の活字)を模写することである。漢字を知っていたというなら,手本を見る必要などないし,まして,同じ音に無頓着に(作為的にでなく)漢字を当てるなどということはないだろう。原決定の論旨は誰をも納得させることはできない。
 原決定は,神戸第2鑑定が,本件脅迫状の正しい筆順で書かれた「供」字のほかにめずらしい筆順で書かれた『供』があることを脅迫状の作為性を示すものとして指摘したのに対して,「他の「供」の5文字と比較検討すると…運筆の筆順の誤りが作為的に書かれて生じたものとは考えられるが,同字は書字能力の低い者が多少練習しても書字し得るものではないと断じ得るとした根拠が明確でない。」としている。しかしながら,神戸第2鑑定は,この「供」字をめずらしい筆順で書きながらも,流れるような筆勢があり,しかも,「供」の字の形におさめているという点を指摘し,このような「供」を書字能力の低い者が多少練習しても書字し得るものではないとしているのであって,原決定が「根拠が明確でない」とするのはあたらない。
 以上のように,原決定の神戸第2鑑定についての評価は完全に誤っており,神戸第2鑑定が新規明白なる新証拠であり,関係証拠との総合評価によって請求人が有罪証拠の主軸とされた脅迫状を書いたとすることに合理的疑いが生じていることは明らかであり,ただちに,原決定を取り消し,再審が開始されなければならない。

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