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7 江嶋ほか意見書の新規明白性と原決定の誤りについて

 原決定は,江嶋ほか意見書について,「請求人が義務教育として十分な国語教育を受けることができず,社会生活上読み書きの体験も乏しかったことは明らかである」としつつも,一方で「ある程度の国語知識を集積していたことがうかがわれる」と述べるだけで,具体的に国語能力の程度と格差について厳密に検討せず,「本件脅迫状作成者と請求人のそれとの間に格差があると結論するのは,必ずしも当を得たものといい難い」としている。
 しかしながら,江嶋ほか意見書は,学校での教育の状況,社会に出てからの仕事関係など,請求人の生活の中における読み書き体験について,克明らかつ全般におよぶ生活史調査に基づいて,事件当時の請求人の国語能力(読み,書き,作文能力)の程度を解明し,請求人が脅迫状を作成したものではないことを明らかにしたものである。その要旨は以下のとおりである。
(1)当時の教育状況,一般的学力水準,請求人の所属していた小学校の教育状況,小学校当時の生活状況,小学校における請求人の学習状況・学力および仕事先での読み書き体験の状況等を豊富な資料に基づいて実証し,請求人の国語能力が小学校2年途中程度のものに過ぎなかったことを社会学的に解明し,もって脅迫状に比べてはるかに低かったことを裏付けた。
(2)上記結論によって被差別部落出身者を対象とした識字学級において,請求人と同じように学校教育を受けられずに読み書き能力の極めて乏しいまま成人段階を迎えた人々の識字状況に関する実態調査を行い,これによって請求人が手本を見ても脅迫状のような文章を書くことができなかったとの結論が経験則にかなっていることを実証した。
(3)本人の強い学習意欲とそれを保障する客観的状況に恵まれたという条件がありながら,請求人が脅迫状程度の国語能力を身につけたのは,逮捕後1年から2年以上後であったことを明らかにすることによって,事件当時に到底脅迫状を書けなかったことを浮き彫りにした。
(4)脅迫状作成者と請求人作成文書とは別人のものであるとの結論は,国語能力に習熟している学校現場の教師の経験的判断と合致していることを明白にした。文章作成者の同一人性に関する判断は,国語学者等の専門家の専門的意見も重要であるが,国語能力に習熟している人々による経験則的判断も基調であり,その意見は無視できない。脅迫状作成者は請求人ではないとの現場教師による一致した結論を集積した同意見書は,弁護人提出の他の鑑定書が経験則に裏打ちされた社会常識にかなっていることを明らかにした点で,その意義は重大である。
 原決定は,上記のような江嶋ほか意見書の指摘を正しく評価・判断したものとは言えず,破棄されなければならない。

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