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2 山下意見書の新規明白性と原決定の誤りについて

 原決定は,山下富美代意見書について,「筆跡の特徴点を捉えるについて判定者の主観が入ることは避け難いであろうから,これが,異同比率(対照特徴総数中に見られる同一特徴の百分比)の算出にも影響するに難くな」いとして,「山下意見書の価値は,限定されたものといわざるを得ないのであって,3鑑定の判断を揺るがすものではないない」とした。しかしながら,原決定が述べるように「筆跡の特徴点を捉えるについて判定者の主観が入ることは避け難い」ことを理由に鑑定の価値を限定されたものとす  るならば,「筆跡の特徴点についての判定者の主観」のみにもとづいた3鑑定に証拠価値は存しないものと言うべきである。
 山下意見書は,警視庁科学検査所で文書鑑定実務に従事していた経験を持つ本鑑定  人が,従来の筆跡鑑定方法の問題点をふまえて,個々人の書く平仮名文字の縦横比は,その平均値はある程度作為的に変化させることはできても,散らばり具合(分散)は容易に変化させることができない点に着目し,個々人の書き癖を示す縦横比の分散の違いの検定に統計的検定法を導入し筆跡の異同の判別に新たな観点を提起した。すなわち,本件脅迫状と請求人自筆の脅迫状写しおよび昭和38年5月21日付上申書の平仮名文字について,縦横比を個々の文字ごとに求め,平仮名全部について求めたその数値に基づき,平均値及び分散の状態を曲線で図示する操作を経て,その間にみられる分散の違いを統計学的方法によって検定し,筆跡の異同を検査したものである。あわせて,漢字の出現率,誤用・当て字と誤字,漢字の熟知性,筆勢・筆速などの諸点における相異をも検討し,「同一筆跡と断定することは不可能である」と結論しているのである。原決定は山下意見書の評価を誤ったものである。
 また,原決定は「異同比率算出の基礎にし得たのは,共通同一文字である漢字として『月』『日』『時』の3文字にすぎず,共通漢数字の『五』を加えてやっと4文字になる程度であり,量的に問題がある」とするが,山下意見書は,鑑定資料の適格性について厳密に検討した上で,脅迫状と上申書に共通する漢字4字(および『ツ』)を用いて異同比率を算出しているのであって,鑑定の結論の妥当性を何ら左右するものではない。
山下意見書が述べるように,「形態上の相違の有無と程度を経験的帰納法によって行っていた」従来の筆跡鑑定方法に対して,異同比率にもとづく鑑定方法は,「筆跡において恒常性のあるのは,文字の絶対的大きさではなく,字画相互の大きさの比率,すなわち相関数値であることが,実験的にも証明されており,このような客観的手法を筆跡鑑定に取り入れ」たものであり,「字画構成,字画形態,筆順特徴を中心においた特徴の対象方法をとっているため」に共通同一漢字を資料としているのである。このことはむしろ,山下意見書の科学的客観性を示すとともに,山下意見書が指摘する資料の妥当性,筆跡の恒常性および時系列的変化を無視した3鑑定の証拠価値こそ大きく揺らいでいることを明らかにするものである。
  原決定は,山下意見書の評価を完全に誤ったものと言うほかなく,破棄されなければならない。

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