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狭山事件特別抗告申立書補充書 11

          

第10 死体の足首の状態についての原決定の誤り

 弁護人は、後頭部損傷の状態、足首部分の状態など、死体そのものの客観的状況からは、死体の逆さ吊り、芋穴への隠匿という事実が存在しなかったことを、これまで、実験鑑定等によって、主張・論証してきた。原決定審においては、千葉大学教授木村康作成の平成元年12月7日付「芋穴への逆さ吊り」実験報告書(以下木村実験報告書と簡記する)、東京大学教授井野博満の同月6日付「逆さ吊り」における荷重の測定および損傷についての実験報告書(以下井野実験報告書と簡記する)、労働科学研究所主任研究員大西徳明作成の同年3月10日付「芋穴への逆さ吊り」実験被験者の筋力検査報告書等の新証拠を提出し、請求人の自白のように、死体を逆さ吊りして芋穴への隠匿を行えば、死体足首に痕跡が残らないことはありえないことを明らかにした。さらに、本件被害者を解剖した警察技師五十嵐勝爾にたいする面会テープならびに反訳を提出し、被害者の死体を芋穴へ逆さ吊りにしたとする請求人の自白が虚偽であることを明らかにしたのである。
 被害者に対して解剖を行った五十嵐勝爾医師は、弁護人にたいし「逆さづりにして体重がかかれば、縄のかけたところに皮むけや圧痕ができなければならないが、解剖時に自分が見たときにはぜんぜん見えなかった。そして、死後日数が経っているので、水分が蒸発してくるから、皮がむけて、色の変わったところができなきゃならない。それが手足、全然ない。ということは否定材料だろうと思う。」「本人の供述そのものが、はたしてほんとうのことをいっているのかどうか、それが大きな問題じゃないかと思う」旨述べ、逆さ吊りに関する請求人の供述に信用性がないことを明らかにしている。
 しかしながら、原決定は、これらの新証拠の内容を全く検討することなく、「死体の吊り下げ、吊り上げの態様に関する請求人の自白内容は、ありのままを述べた正確なものとは、必ずしもいえないと認められるのであって、自白内容に相応する事態を想定して再現実験を行い、その実験結果から、芋穴へ一時死体を隠匿した旨の自白内容の真偽を論定することは、ほとんど不可能に近いといわなければならない。所論援用の各報告書が実験の基とした自白内容自体、実際の状況を細部にわたるまで如実に述べたものとは必ずしもいえない以上、これらの報告書の実験結果から、発見された死体の足首に吊るした痕跡ないし損傷がないのは不自然であると結論し、そのことから直ちに、本件芋穴に死体を一時隠匿した旨の自白は虚偽の疑いがあり、確定判決の事実認定に合理的な疑問が残るとまでいうことはできない」と判示している。
 原判決は「自白内容の真偽を論定することは、ほとんど不可能に近(い)」との不可知論に立っているのであって、このような原判決の姿勢は、無辜の救済と真実の究明という再審裁判所の使命を放棄するものであり、きわめて不当である。
 請求人の自白は、以下のとおりである。
 「私はYさんの足をしばると、足から一米位の長さのところの縄を自分の右手にまきつけて、あなぐらの北側からYちゃんの頭の方から先に穴ぐらの中へ入れましたが、自分の右手へ縄を一巻まいたわけはYちゃんをどすんと落とさないようにその右手でしっかりと押さえておくためでした。そしてYちゃんの重みが右手にかかった時に巻いた縄を手からほどきだんだんに縄をのばして行ってその端を桑の木にしばりつけた…」(6月28日付員青木調書)
 「私は縄を両手でしっかりと握り、Yちゃんを藷穴の壁の方をずらす様にして縄を少しずつゆるめて穴の中に降ろしました。その時も雨は降り続いており、吊るした縄は藷穴の口の角の所にくっつけて少しずらしたので割合い楽に降ろす事が出来ました。」(7月1日付検原調書)
 「引き上げる時は、縄の端は桑の木にゆわえた儘穴倉の入口の桑の木の方に立って縄をたぐりながら少しずつ引上げました。それで、Yちゃんの体は穴の壁にすれながら引き上げられたわけです」(7月8日付検原調書)
 これらの請求人供述を前提として、その信用性を検討するための再現実験はきわめて有意義なものであり、その実験結果を全く検討することなく、一切を無視するという原決定の姿勢は決して許されるものではない。
 確定判決は、「被害者の死体は文字どおりの宙吊りではなく、死体はあお向けに芋穴の底に横たわっていたか、少なくとも上半身は芋穴の底につきあお向けの状態であったと推認することができる」としたうえ、被害者の足首に何らの痕跡がないことについて、@被害者がソックスをはいていたことA足首に力が加わるのは短時間であることB死体の出し入れ作業を静かに行えば足首に痕跡が残らないことも十分ありうることとした。
 しかしながら、前記木村実験報告書によれば、被験者5人ともソックスをはいた状態でも、足首には強度の圧痕が形成され、表皮剥奪(皮むけ)を伴っており、請求人の自白のように、死体を芋穴に吊り下げ、吊り上げして出し入れすれば、足首には損傷が確実に生じることが明らかになったのである。また、前記井野実験報告書によれば、「自白にあるような死体のつり下げ、つり上げをおこなった場合の死体足首に加わる荷重の条件は、本実験の人体逆さづりの際の条件より苛酷と考えられる。それゆえ、本件自白のように死体のつり下げ、つり上げが実際におこなわれたとすれば、今回の人体逆さづり実験の際に生じた足首の損傷以上の損傷が生じると推認される」との結論に至っている。また、前記大西筋力検査報告書は、請求人が優れた筋力の持ち主であったとしても、実際に芋穴への死体の吊り下げ、吊り上げを行ったのであれば、被害者足首に痕跡が残らないことはありえないことを明らかにしている。人体逆さ吊り実験は、取り付けた滑車によって、静かに人体の吊り上げ、吊り下げを行ったものであるが、それにもかかわらず、被験者の足首には、強度の圧痕、皮むけの痕跡が生じている。実際に、自白のように死体の吊り上げ、吊り下げが行われたとすれば、ダミー人形による逆さ吊り実験のように、荷重の条件は、より過酷となるのであり、人体逆さ吊り実験の際に生じた損傷以上の損傷が生じることは明らかである。
 死体処理に関する原1審、原2審で取り調べ済みの旧証拠、第1次再審請求審で提出済みの各新証拠、本請求審提出の各新証拠を総合して評価すれば、死体処理に関する請求人の自白が虚偽であることは明白である。貴裁判所において、死体処理に関する関係証拠の事実調べを実施し、再審を速やかに開始すべきである。

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