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狭山事件特別抗告申立書補充書 4

                 

第3 指紋に対する原決定の判断の誤り

1.指紋不検出の不自然性について

 原決定は、弁護人らが指紋不検出の不自然性を指摘したことに対し以下のとおり判示している。すなわち、

 …しかし、原決定が指摘するように、一般に、手指で紙などに触れた事実があり、その分泌物の付着も十分であったはずでも、その触れた個所から、異同の対照が可能な程に鮮明な指紋が必ず検出されるとは限らないのであるから、請求人のものと同定できる指紋がこれらの対象物から検出されなかったことが、即、請求人が本件脅迫状、封筒及び善枝の身分証明書などに手を触れた事実がないことを意味するとはいえず、所論援用の証拠等も、この点に関する確定判決の事実認定を動揺させるものとはいい難い。
 
 しかしながら、これは原々決定の単なる繰り返しに過ぎない。接触頻度がはるかに少ない関係者ら(被害者兄と駐在巡査)の指紋が脅迫状から検出されているのに、時間をかけて脅迫状を書くなど接触頻度が圧倒的に多い請求人の指紋が一個だに検出されなかった不自然さは依然としていささかも解消されていない。しかもその不自然さたるや事件の真相−請求人ははたして真犯人なのか−を垣間見させるような性質のものであり、通常は犯行との結びつきをに重大な疑問を投げかけさせる事実である。

         

2.手袋痕の付着について

 原決定は、手袋痕の付着について以下のとおり判示している。すなわち、

 既に述べたとおり、齋藤鑑定書指摘の写真には、縞模様らしいものがその指摘の個所に薄ぼんやりと印象されているかに見えるが(所論にかんがみ現物を検しても、現在では判然としない。)、これを犯人の用いた軍手様の手袋の汚れが付着したものであるとする同鑑定書の指摘は、一つの推測の域を出ないものというほかはない。

 しかしながら、齋藤鑑定人の指摘は、長年の経験からきた観察眼と実験結果に基づく判断であって、いわゆる素人判断のレベルに止まるものではない。非専門家には一見縞模様らしいものが薄ぼんやりと印象されているとしか見えないものが、経験を積んだ専門家による実験を含む探求によって、軍手の縫い目であることが摘出されている。とくに人為的幾何学模様であるツブツブ痕が摘出された意義は大きい。もはや判然としないなどとは言えないからである。
齋藤鑑定人の指摘をさして、一つの推測の域を出ないものというほかはないとした原決定の誤りは明らかである。

      

3.齋藤実験鑑定について

 原決定は、齊藤実験鑑定について以下のとおり判示している。すなわち、

 実験の条件設定が本件封筒・脅迫状の作成、保管状況等を正確に再現できたものか明確ではないから、同鑑定書も前記結論を左右するものではない。

 しかしながら、齋藤実験鑑定は、「異同の対照が可能な程に鮮明な指紋が必ず検出されるとは限らないのである」とする「一般論」が、本件にも妥当するか否かを確かめるために実験を行なっている。その際の条件設定は、確定判決の事実認定に沿ってなされている。原決定が具体的根拠を示さずに正確さに疑義を呈しているのは不当である。裁判所自らが条件を設定して、再実験を命じるべきであろう。
 実験において指痕分泌物に反応した個所は、221ヶ所(うち脅迫状127ヶ所)にも及んでいる。もともと紙については、アミノ酸が繊維の目の中に染み込んで指紋の潜在像を作る。このため時間の経過によっても指紋検出に影響が及ばず、紙からは指紋が検出されやすいという特徴がある。実験によって厖大な数の指痕と複数の合致指紋が検出されたことは、これを証している。これに反し、検出不能ではなかった本件脅迫状からの指紋検出数は圧倒的に少なく、かつ請求人の指紋はひとつも検出されていない。本件においては請求人と手袋との結びつきは一切存しない。別人の犯人が手袋を使用して書いたということにならざるを得ない。
 
 以上のことを明らかにした齋藤実験鑑定は、まさしく新規明白な証拠である。

            

4.むすび

 齋藤実験鑑定を含めて弁護人提出の諸鑑定に対して、原決定は、「一つの推測の域を出ないものというほかはない」といった言辞の反復でこれらを退けている。
 しかしながら、そこにいかほどの理由が具備されていることであろうか。本書面において、その内容の乏しさを明らかにしてきたつもりである。専門性のある事項に関する当該専門家の判断に対して、専門機関でない裁判所が相鑑定なしに直接判断するということは、冤罪に途を開いたり、そこからの救済を閉ざすことに通じる危惧なしとしない。相鑑定と「比照考覈」(大審院昭和8年10月16日判決)したうえで裁判所としての検討判断を行うべきである。これは、自由心証主義に内在する制約原理である経験法則・判断の合理性、ひいては「憲法の所期する裁判の公正」(刑訴規則1条1項)を保障するために要請されているものと言わなければならない。
 本件において原審が齋藤第一鑑定など一連の諸鑑定を相鑑定なしに直接判定していることは、上記の憲法に淵源する要請に反しており、その結果として上記諸鑑定の明白性を認めることのできなかった原決定は破棄を免れない。
 すでに新規明白な証拠群が提出されており、直ちに再審が開始されるべきである。

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