「部落地名総鑑」とは、全国の被差別部落の名前・所在住所などが一覧のかたちで記された差別図書のことです。部落出身者を就職時や結婚の際に排除・差別することを目的として、興信所や探偵社が密かに出版し、多数の大企業や個人などに「極秘資料」として売りつけられてきました。
最初の地名総鑑は1975年にその存在が明るみに出ました。全国の被差別部落の地名・所在住所の他、住民の主な職業までも一覧にしたもので、大企業などに秘密裏に販売されていました。この地名総鑑の序文には、「採用問題と取り組んでおられる人事担当者や、お子さんの結婚問題で心労される家族の人たち」のために「このたび世情に逆行して本書を作製することに致しました」とあからさまに書かれていました。この地名総鑑を購入していた企業は全国に多数存在し、中には東京証券取引所一部上場の名だたる大企業も多数含まれていました。もちろん東京都内の企業も多く存在しました。
私たち部落解放同盟は、ただちに全国的な糾弾闘争をおこないました。発行元の探偵社はもちろん、購入先の企業とも確認・糾弾会を持ち、この図書の出版目的が「主に就職や結婚などに際して、被差別部落出身者を排除・差別するため」であり、購入の目的もまさにそこにあったことをつきとめました。部落民を、ここまでして差別しなければ気がすまない企業や個人が日本中に多くいること、そして差別を商売にしている連中までいる事実がはっきりとしたのです。
これまで、多くの部落民が就職差別や結婚差別に苦しんできました。中にはそのために尊い命を自ら絶った若い部落民もいます。その無念がどれほどのものであるか、私たちは部落地名総鑑事件を徹底的に糾弾することで広く社会に訴えかけました。しかし、残念ながら同種の事件は今も後を絶ちません。1975年から現在までに少なくとも9種類の部落地名総鑑の存在が明らかとなっています。
最近東京でおこった類似・関係事件だけでも、行政書士が興信所へ大量の戸籍を密売していた事件(1990年)や、大企業の依頼を受け、被差別部落出身者かどうかなどを興信所が調査していた差別身元調査事件(1996年)などがあります。
私たちはこのような事件の根絶をめざして、差別糾弾闘争をおこなっています。