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「差別身元調査事件」の全貌

大企業の依頼受けた興信所が、就職希望者が被差別部落出身者かどうか調査していた

                     

 1998年6月、大阪市にある大手の興信所が大企業などから依頼を受けて、就職希望者が被差別部落出身者かどうかなどの差別身元調査をおこなっていた事実が発覚しました。この興信所は東京でも同様の事業を展開しており、都内の大企業など数十社からも同じような依頼を受け調査をしていたことが分かりました。
 私たちは、この興信所や調査を依頼した大企業などとの事実確認の作業を進め、事件の真相究明と再発防止のための活動を続けてきました。
 部落解放同盟東京都連合会人権対策部は、この事件について次のような報告を発表しています。


               

差別身元調査事件の真相究明報告

  

部落解放同盟東京都連合会人権対策部

  

1.部落差別身元調査事件の発覚

 1998年6月大阪市内にある(株)日本アイビー社とその子会社であるリック(株)が多数の企業から依頼を受け、就職希望者が被差別部落出身かどうかなどの差別身元調査をおこなっていた事実が発覚した。
 履歴書には、「解放会館のとなり」「町の革屋」と書き込まれ、部落出身であると報告され、部落出身とわかった時点で「※」印がつけられ、それで調査がストップされている。
 (株)日本アイビー社とその子会社であるリック(株)は被差別部落を「※」印によって明確に示した上で「調査不能」と企業に報告している。明らかに部落差別にもとづく差別身元調査がおこなわれていた。
 1975年の部落地名総鑑事件が発覚してから23年間も経過した、今、再びこのような差別身元調査事件の発生に強い憤りを禁じ得ない。
 また、日本アイビー社の身元調査は、家族・家柄・出身・学歴・性格・思想・宗教・組合活動・職業・支持政党など多岐にわたる身元調査をおこなっていた。そして、日本アイビー社と取り引きのあった企業は約1400社にものぼる事実が判明しているのである。
 部落解放同盟東京都連合会では今年、6月に差別身元調査事件糾弾闘争本部を設置し、組織の総力をあげて取り組みを開始した。

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2.東京における差別身 元調査事件の真相究明

<「事情調査会」の開始>

 日本アイビー社の顧客リスト(会員企業)1400社の内、都内の企業は232社である。その内、採用時に身元調査をしていたと思われる企業69社が就職希望者が被差別部落出身かどうかなどの差別身元調査をおこなっていた事実が発覚した。我々はこの69社について、1社づづ呼んで「事情調査会」をおこなった。
 69社の中で7社が「事情調査会」への出席を拒否。日本アイビー社に身元調査を依頼したにもかかわらず、真相究明に協力せず、居直っているこれら企業は、今後も追及し続けていかなければならない。
 さらに残りの適正検査や企業信用調査や社員の素行調査などを依頼していたと思われる163社については、アンケート調査をおこなった。アンケート調査の結果、30数社が採用調査であることが判明した。232社の内、実に100数社が採用時の身元調査でおこなっていたのである。(1999年10月末現在)

<事情調査会で明らかになったこと>

(1)1社を除いてすべての企業が採用時に身元調査をしていた

 事情調査会では、まず取り引き内容を聞いたところ、1社だけが「適正検査」であったと回答後の企業はすべて、新卒・中途採用などの採用調査であったことを確認した。

(2)企業は、アイビー社の「事業内容」を知っていて依頼していた

 事情調査会でアイビー社との取り引きのきっかけを聞いたところ、半数以上の企業が日本アイビー社社員の営業を受けて、取り引きを開始したと回答であったが、親会社・グループ会社の紹介も数社あった。ほとんどの企業がアイビー社の「事業案内パンフレット」)を受け取り読んでいたことがわかった。
 日本アイビー社の会社案内パンフレットには、「人物評、思想、勤務先状況、家族の思想と生活、政党籍およびセクトの有無、政治活動歴、機関紙購読の有無、イデオロギー」などの調査項目が紹介されている。
 このような憲法違反のパンフレットが公然と営業で渡され、まかり通っていたこと自体が問題である。このパンフレットが問題であることを指摘した企業は一社もない。

(3) 企業は家族・宗教・政党・組合などの身元調査報告書を受け取っていた

 各企業に日本アイビー社にどのような調査を依頼したのか聞いたところ、「思想(学生運動)調査」「サラ金・債務の有無」「退職理由」「人柄」「犯罪歴」などを依頼した企業もあるが多くの企業が「履歴書に偽りがないかどうか」「職歴に偽りがないかどうか」いわゆる「履歴・前歴の確認」のためと回答している。ところが資料として提出された企業が保管していた身元調査報告書には、分析結果の欄には、総合判定ABCD、判定基準項目・人間性・思想動向・勤務先状況・健康状態・素行とあった。またイデオロギーの欄には、政党籍・労組活動歴・民文活動歴・市民運動関心度・進歩的購読物・勤務先動向・交友関係・政治動向家庭背景があり、それぞれ書き込みがあった。
 このような報告書を受け取りながら、「サービスと思い参考資料にしていた」などと回答し、ほとんどの企業が報告書を受け取りアイビー社に「このような身元調査は問題である」と指摘した企業はない。しかも、報告書は廃棄処分した企業が圧倒的に多いいのである。
 明らかに調査依頼内容が履歴・前歴確認と言えども、事実は第三者の調査会社にお金を支払い、上記の身元調査報告書を受け取っていたのが実態である。

(4)企業は応募者のプライバシーを考えず、履歴書を垂れ流していた。

 事情調査会で企業がアイビー社に調査をどのように依頼したのか、依頼方法を聞いたところ、多くの企業が履歴書をコピーし、FAXで送っていたことがわかった。しかも履歴書のコピーは回収していないのである。
 このような履歴書の垂れ流しは、応募者に対する著しい人権侵害である。

(5) 企業防衛のためには、履歴書確認・職歴確認は当然という意識であった

 こうした身元調査について企業は「履歴確認は当然だと思っていた。当社だけやっているわけでないと考えていた」「役員に中途採用調査は当たり前と指摘された」「会社の常識と思っていた」「昔からの慣習としてやっていた」「職安の指導に違反していることはわかっていたが、新会社設立でやむえず」などと多くの企業が採用時の身元調査は当たり前という意識であった。
 履歴・前歴確認は当然という意識とは採用時の身元調査は当たり前という意識なのである。企業の根強い差別体質が表れている。

 以上が、これまでの真相究明の取り組み報告である。

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3.差別身元調査事件の問題点と今後の課題

<身元調査依頼企業の差別体質>

 今回の差別身元調査事件の差別性と問題点の第1は、企業防衛のためには履歴・職歴確認は当然、採用時に「調査会社」を使い、金を支払って身元調査を依頼することに全く疑問を持たないところにある。しかも、依頼企業の履歴・職歴確認の依頼とは、日本アイビー社の「身元調査報告書」が示すように、「家族・家柄出身、学歴、思想、宗教支持政党・組合活動・職業など」の身元調査なのである。
 このような身元調査報告書を受け取り、採用時に「参考資料」にしていた事実は、依頼企業には「採用時の身元調査」は企業防衛のためには当たり前、常識という意識や習慣が存在していたことを示している。しかも、こうした企業の常識や習慣は今日も根強く、広く存在しており、ここに企業の差別体質の核心がある。また、部落解放同盟東京都連が東京アイビー社(大阪に本社がある日本アイビー社と同じ企業名、同じ身元調査をおこなっていた調査会社が東京にも存在、会社そのものは、別法人と関連は否定しているが会社の設立者は同一であり、実態は同一である)に対する事実調査をおこなった際の証言が企業の差別体質の広さを示している。
 東京アイビー社によると「東京アイビー社の会員企業は280社ぐらい、売り上げは採用調査が多い。6対4の割合。取り引きのあった企業は1000社以上。東京の企業の7割は、採用調査をしていると思う」との証言である。都内の企業全体の体質と言わざるを得ない。
 次に企業の差別体質の根深さと中身についても日本アイビー社の「身元報告書」は示している。
 「身元調査報告書」には、家族の思想や生活状況や職業や近隣の風評などが詳しく調べられている。たとえば「父は旧◯〇職員であるが労組活動歴はなく、家庭内に特定の思想色は認められない。母はパートタイマーとして勤めに出ている。朗らかで庶民的な婦人と言われている」などである。 また別の「報告書」では、「父 中央卸売市場 食肉市場管理係」と父親がと場に勤めていることが特記されている。
 また、別の「報告書」では、本人の戸籍移動状況が詳しく調べられているケースもあった。
 このような身元調査は明らかに部落差別による就職差別を引き起こす結果となることは明瞭である。東京都連はこれまでN紡績会社就職差別事件をはじめ数多くの就職差別事件の糾弾闘争を取り組んできた。こうした経験から今回の差別身元調査事件は、部落差別にもとづく就職差別の温床が明らかとなったものであると考える。
 企業の差別体質を厳しく追及し、二度と差別身元調査事件をおこさないための取り組みをおこなっていかなければならない。

<調査業者の差別体質> 

 第2に、日本アイビー社をはじめとする調査業者の差別体質である。
 日本アイビー社その子会社リックは、部落解放同盟の糾弾会の中で、部落出身者や国籍などについての差別調査の事実を認めて謝罪するとともにアイビー社は調査業からの撤退、リック社は廃業することを明らかにした。
 この両者は、統一応募用紙の徹底などにより、身元調査お断り運動が広がる中で、差別につながる出身地、思想、宗教、民族など「統一用紙」から削除された項目を調査することでこの業界で唯一業績をのばしていた。糾弾会の中で両社は「社の体質として会社ぐるみともいえる状況の中で差別調査をおこなっていた」ことについて認めた。
 また、東京アイビー社は都連が真相究明のために会員名簿を明らかにするよう求めたことに対して、「会員名簿を出せば会社はつぶれる。出せない」と居直り、また元東京アイビー社の社員が日本インテレクト(株)という調査会社を設立し、身元調査を含む営業をつづけ生き残りを図ろうとしている可能性が高い。
 あくまで差別身元調査で儲けようとするこの悪質な東京アイビー社の居直りの中に調査業者の差別体質が如実に表れている。居直る東京アイビー社を徹底的に追及し、糾弾していかなければならない。
 さらに、「事情調査会」で、日本アイビー社以外の調査会社を使っていた事実も明らかになっており、調査業界の差別体質が問われている。

<行政機関の取り組みの不十分さ>

 第3は東京都そして都労働経済局、職安をはじめとする労働行政の取り組みの不十分さの問題である。
 部落解放同盟東京都連合会の「事情調査会」で公正採用選考人権啓発推進員は名ばかりであり、形骸化していたことが明らかとなった。従業員100人以上の企業は公正採用選考推進員を設置することになっている。しかし、職安に推進員の名前を届け出しているだけで、この推進員制度も推進員の役割も知らない企業も多かった。また推進員が誰か不明になっていたケース、推進員としての自覚がまったくなく、職安の研修もただ出席しているだけで、アリバイ的なかかわり、職安の指導を社内に生かすこともなく、社内研修もほとんどされていない実態が次々にあきらかとなった。さらに推進員を設置していない企業もあり、今回はじめて職安に届け出をおこない推進員を設置した企業もあった。
 今回の身元調査事件が発生した原因の背景はこの推進員制度の形骸化にある。労働行政の責任は大変重い。
 さらに、東京では「興信所・探偵社・調査会社」の差別身元調査が野放しになっていることが今回の差別身元調査事件の原因・背景となっている。
 東京都人権部・労働経済局との交渉で東京都は「興信所・探偵社・調査会社」の実態すら把握していないこと。また、行政のどこがこれらの調査会社などを指導・監督するのかさえ不明確なのである。都内では1990年に「行政書士や社会保険労務士が戸籍を不正入手し、興信所に転売していた」戸籍不正請求事件が発生している。このように大きな社会問題になった事件がおきていながらこれまでまったく対策を立ててこなかったのである。東京都の行政責任も大変、重いと言わなければならない。

 <差別身元調査事件で問われる今後の課題>

(1)「部落差別に係わる身元調査等規制条例」の制定を

 今回の差別身元調査事件の日本アイビー社と子会社のリック社は大阪に本社があることから、大阪府の「部落差別事象に係わる調査等の規制等に関する条例」違反になり、社会的に明きらかになった。昨年7月、大阪府はこの「規制条例」にもとづき立ち入り検査、二社とも差別身元調査をしていたことを認め、大阪府の支持にもとづき、会社内でやりとりされた差別的な内容を書き込んだ履歴書と調査会社とかかわっていた約1400社におよぶ顧客企業リストを大阪府に提出した。 東京都には、このような「規制条例」はなく、悪質な差別身元調査をおこなう「興信所・探偵社・ 調査会社」が野放し状態になっているのである。
 今回の差別身元調査事件を教訓に東京都でも「部落差別に係わる身元調査規制条例」をつくることが急務の課題である。

(2)東京都・職安行政は公正採用システム確立策の抜本的強化を

 東京都と都労働経済局は都連との交渉の中で「推進員が形骸していると思う」と述べた。労働行政は、このような推進員の形骸化に対する抜本的改善に取り組まなければならない。
 まず、全企業に推進員制度の徹底をはからなければならない。そして公正採用システムの確立するための対策を早急に明らかにしなければならない。

(3)企業の差別体質の抜本的改革・経済界の取り組みの抜本的強化を

 「部落地名総鑑」事件から23年、この事件の教訓からできた「企業内同和問題研修推進員」(現在は公正採用選考人権啓発推進員)を労働省が設置してから22年経過した、今日において、今回のような差別身元調査事件が発生していることに、私たちは強い憤りを禁じえない。「事情調査会」に出席した多くの企業が「見解文」を提出し、反省内容を明らかにし、今後の取り組みを約束した。
 しかし、都内のすべての企業が公正採用システムを確立しなければ、差別身元調査事件は根絶できない。今回の事件については、部落解放同盟の要請を受け、経済団体連合会・日本商工会議所・経済同友会・日本経営者団体連盟の経済団体の声明が1999年8月3日に出されている。
 経済界の取り組みの抜本的強化を求めていかなければならない。 最後に東京都連は、この間の差別身元調査事件の真相究明の取り組みをまとめた小冊子「何をしらべようというのか? 差別身元調査事件の真相」を発行した。
 この小冊子を活用し、全同盟員が一丸となって「差別身元調査を許さない! 就職差別撤廃」のキャンペーン運動を展開していこう。

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部落解放同盟東京都連合会

http://www.asahi-net.or.jp/~mg5s-hsgw/

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