5.石川さんの無実は証拠が証明
(3)自白の内容と犯行が全く一致しない
石川さんを「有罪」ときめつける根拠は結局のところ自白しかありません。しかし自白の中身と実際の犯行内容とはあまりにもかけ離れています。多くの相違点の中から2つだけ例を出します。
☆まず、殺害方法の相違について。
石川さんの自白では被害者は「掌で首を圧迫して」殺されたことになっています。しかし、実際には被害者は「やわらかい手ぬぐいかタオルのようなもので絞め殺された」のです。これは再審請求をするようになってから弁護団が専門家に鑑定を依頼して分かったものです。被害者の首の部分に、絞殺時にできる特徴的な痕「蒼白帯」が発見されたのです。
このことについて1999年の棄却決定では、「もしかしたら絞殺かも知れないが、そんなことはたいしたことではない」というような言い方をしています。しかし、殺人事件の裁判で「どういう殺し方をしたのかは関係ない」などという判決があるでしょうか。また、真犯人が「凶器を使って殺したのか、素手で殺したのかよく分からない」などということがあるでしょうか?
この疑問についても2002年の棄却決定は答えませんでした。
☆つぎに、殺害現場そのものが違うことについて。
殺害現場とされる雑木林については、再審請求の段階になって次のような事実が発覚しています。
殺害が行なわれたたとされるまさにその時、この雑木林のすぐとなりの畑でOnさん(右写真説明ではOさん)という人が農作業をしていたのです。しかもOnさんは「自分は人影も見なかったし、悲鳴も聞かなかった」「あそこで殺人事件があったとは考えられない。なにかあればいやでも見えたし聞こえた」と証言しています。Onさんが作業していた畑と、雑木林の殺害現場とされる場所との間は、最大でも50メートルしかありません。相互に見通しもよく、互いを見落とすことは考えられません。雑木林からは被害者の血痕も発見されませんでした。警察側の検死報告では、被害者の後頭部には大きな傷があり、そこから殺害現場に牛乳瓶にして2〜3本分の血液が体外に流れ出たはずなのにです。
高木裁判長も、そして高橋裁判長も、Onさんの証言について「なにか呼ぶような声を聞いている。これが悲鳴だ。また作業に集中していたから(すぐ近くで強姦殺人が行なわれていても)気づかなかった可能性もある」と言っています。これに対してOnさんは、「そんなことはない。ちょっと呼ぶような声がしたと言うのは、どこか遠くの方からかすかな人の声が聞こえたような気がしたと言うだけで、あれは絶対に悲鳴ではない。それにいくら作業に集中していたといっても自分の目の前でおきていることが分からないなんてことがあるわけがない。裁判所が話を聞きたいと言うのなら、いつでも証言する」と反論しています。
裁判官がOnさんの証言の中身を確かめたいなら、直接呼んで話を聞けばいいはずです。殺害が行なわれたとされるまさにその時、Onさんが現場近くにいた唯一の人であることは検察も認めています。他に「目撃者」は見つかっていないのです。なのにこの重要証人が、(狭山事件の裁判が始まってから今日まで)一度として法廷に呼ばれたことがなく、裁判官から話も聞かれないというのはどういうことなのでしょうか?