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第三 殺害の態様に関する原決定の誤り

             

一 写真による再鑑定の証拠評価について

 原決定は,石山イク夫(※原文「イク」は漢字、以下同)作成の平成元年2月23日付鑑定書(以下「石山鑑定書」という。)を援用して,写真による再鑑定は間接的・二次的であるという大きな制約を免れないとする原原決定の証拠評価を相当としている。
 しかしながら,「再鑑定の確実な資料は主として当時の写真などであるが,原鑑定人の持っている第一印象(これこそが鑑定において最も重要なものであることはいうまでもない。)を写真そのものが表現しているとは限らないし,写真そのものが撮影時のもつ相当の歪みを示すことがある」と述べている石山鑑定人も原鑑定以後の鑑定の証拠価値をすべて否定しているわけではないこと,原鑑定に対してアプリオリに優位を与えているわけではないことが留意されるべきである。すなわち,「再審請求事件として審理される場合に…(中略)…原鑑定の欠点を主として検討せざるを得なくなるのは,止むを得ざるところであろう。これに対して,裁判官に,それなりの見識を持って,原鑑定をはじめ,いろいろな法医学者の再鑑定をすべて正しく評価してほしいと要望することは無理であることは自明のところであり,このためには,第三鑑定人─原鑑定を支持するとか否定するというようなことは別として─は当該例について,原鑑定や各種の再鑑定とは別に,当該例について,原鑑定人と同じように剖検や検査をやっているという心境で,各ステップをあらゆる偏見を排除して分析し,その観点から,原鑑定や再鑑定を評価するということが不可欠である。」(石山イク夫著,『法医鑑定ケーススタディ』,昭和63年2月,立花書房刊,300,301頁)。
 以上のとおり石山鑑定人は再審請求事件において再鑑定が作成提出されることを当然の前提として第三鑑定の必要性を強調しているのである。本件において写真等による再鑑定に意義が存することについては,つとに昭和58年3月15日付獨協医科大学教授(当時)上山滋太朗作成の鑑定書(以下「上山第1鑑定書」という。)は,以下のとおり指摘している。「一般的に言えることだが,夜間の電灯下における解剖は,たとえ明るい照明下であっても,剖検所見の記載には当然
 限界があるので,写真の方が─よい写真であれば─かえって肉眼で得られる所見に勝るとも劣らない良い再現性を示している場合も多いのである。肉眼ないしルーペによる観察は局部的な微細な所見の把握には適しているが,全体的な所見の把握には写真の方が勝っている。また黒白写真では,肉眼的には不鮮明な淡赤色の変色部を強調した形で提示してくれる。
 以上の点を本件にあてはめてみると,両者ともそれぞれ長所・短所を持っており,写真による判断(鑑定)が肉眼のそれに劣るものと,一概に推断することは避けるべきである。問題は,“写真による記録”がどの程度のシャープさを持っているか,また“言葉による記録”がどの程度の正確さと客観性を保持しているかである。両者の内容をそれぞれ十分吟味した上で論ぜられなければなるまい。五十嵐鑑定の添付写真第5号は,死体顔面のやや斜め上方からの照明によって撮影されているため,下顎底の部分が影となり,やや暗調に仕上がっている点が欠点といえば欠点だが,右上胸部の死斑中に下着の模様がくっきりと死後の圧痕として撮影されていることからしても,剖検写真としては,上々の出来映であり,頸部の外表所見を照合する上で,差したる障害はない。」
 原決定は,上山第1鑑定書が上記のとおり委細をつくして写真による記録と言葉による記録の両者の内容をそれぞれ吟味しているのに対して,色調の点以外は何ら具体的に反論していない石山鑑定書や原原決定を支持している点においてまったく不当である。

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