部落解放同盟東京都連合会
資料室 狭山事件の資料室 狭山事件確定判決-INDEX

(自白を離れて客観的に存在する証拠)

 その五 スコップについて。

 所論は、原判決は、自白の真実性を補強するものの第六に「死体埋没に使われたスコップ一丁は狭山市大字堀兼の養豚業I・K方豚小屋から盗まれたものであるが、被告人はかって同人方に雇われて働いていたことがあって、右小屋にスコップが置かれていることを知っており、容易にこれを盗み得たこと」を挙げているが、捜査当局のしたスコップの同一性の確認経過には疑惑があり、スコップが発見された際の状況も被告人の自白と明らかに矛盾しており、殊に発見場所の近くから地下足袋の足跡が発見されていることは他に真犯人がいて当日地下足袋を履いて行動したと考えられる余地もあるというのである。
 そこで考えてみると、証人I・Kの原審(第五回)、当審(第一五・五五回)各供述及び六・二六星野正彦・阿部孟郎作成の鑑定書「附記」の記載によれば、五月一一日S・Gによって発見された本件スコップは、五月六日ころに被害上申書を提出していたI・Kによる確認手続をとらずに五月一二日直ちに鑑定に付されており、I・Kをして同人方のものであるかどうかの確認をさせたのが五月二一日であることが認められる。しかし、被害者の確認手続が遅れたからといって捜査に落度があると非難するのは相当でなく、殊に本件スコップは一見して農作業や土木工事に使われていたスコップではなく、木部に食用の油が付着していたところから、捜査当局が被害上申書が提出されているI・K方で養豚用に使用していたものだと考えて、まずもってスコップに付着している油の性質やこれに死体発見現場の土壌が付着しているかどうかなどについての鑑定を急いだのはむしろ当然の措置であったと判断される。
 次に、当審で取り調べた五・一二司法巡査小川実ほか一名作成の「現場足跡採取報告書」によれば、本件スコップが発見された場所の近くで地下足袋の足跡が発見されていることが明らかである。しかし、本事件から相当の日時が経過し、その間に降雨もあったことなどを考慮すると、捜査当局においてその足跡が「本件」の犯人のものかどうかの判断資料として採取してはみたものの、適格性に乏しいものとしてやむなく石膏型成足跡を廃棄してしまったと解するのが相当で、その間他意あるものとは考えられない。この点をとらえて他に真犯人があるかのよういう所論は相当でない。
 その他、スコップ関係の捜査について、不合理なところや、公正を疑わせるような事情を見いだすことができない。
 ところで、被告人が員及び検調書中でスコップの処置に関して、被害者の死体を農道上に埋めてから自宅へ帰る途中で畑の中へ「放り投げて捨てた」とか単に「捨てた」といっていること、スコップの第一発見者であるS・Gが、原審(第五回)において、スコップを発見したときスコップは麦のうねに沿って隠しかげんに置いてあったと証言しており、五・一一員福島英次作成の実況見分調書添付の写真(三冊八六六丁裏)を見ても、そのような状態であったことは所論指摘のとおりで、この点において多少の食い違いはあるけれども、だからといって被告人が犯人でないとはいえない。
 してみれば、スコップは自白を離れて客観的に存在する物的証拠であり、被告人が「本件」の犯人であることを指向する情況証拠であるとみて差し支えない。原判決が「死体埋没に使われたスコップ一丁はI・K方豚小屋から盗まれたものであるが、被告人はかって同人方に雇われていたことがあって、右小屋にスコップが置かれていることを知っており容易にこれを盗み得たこと」を自白を補強する証拠に挙げているのはまことに相当である。それゆえ、論旨は理由がない。

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