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三、審理不尽
次に、原裁判所が本件のような重大な犯罪について、弁護人の二度にわたる精神鑑定の請求を却下し、その他前掲捜査の経過・アリバイ・生活環境・動機等に関連する多数の反証の取調べの請求を却下し、情状に関する証人四名に限って取り調べたこと、なかんずく、検察官請求の証人小島朝政の再主尋問の際に判明した六月一八日に被告人宅を捜索し差押えをした事実について弁護人が再反対尋問をしようとしたところ、原審の裁判長が右は主尋問の範囲外であるとして排斥したのであるから、反証段階に入って弁護人から六月一八日の被告人宅の捜索・差押の状況及び方法を立証するため同人を証人として請求した際には、これを許すのが相当であるのに、原裁判所が必要性なしとして却下したのは、いかにも公平を欠き是認し難いところではあるけれども、何といっても当時被告人は訴因事実を全面的に認めて争わず、検察官及び裁判長の被告人質問に対しても事件の概要をすべて認める供述をしていたことをも考え合わせると、原裁判所としてはそれまでの証拠調べによって既に有罪の心証を形成してしまっていて、もはや弁護人から請求のあったこれらの証拠を取り調べるまでの必要性はないと考えたものと判断される。そして原審裁判長の前記の訴訟指揮と原裁判所の前記の証拠決定とには一般的にいって批判の余地がないとはいえず、殊に本件のような重大事件については、精神状態の調査に意を用いることが世界的にみて刑事裁判のすう勢であること、裁判所は一見自明と考えられる事柄についてもまずもって訴因事実を疑ってかかるという一般的な態度を堅持し、慎重のうえにも慎重を期する審理態度が望ましいことなどからすると、やや軽卒のそしりを免れないといわざるを得ない。しかし、そうかといって証拠調べの限度は受訴裁判所の合理的な裁量に委ねられているところであるから、叙上の審理経過にかんがみれば、原裁判所としてもはや弁護人の右反証の取調べをするまでの必要はないと判断し、専ら情状に関する証人に限って証拠調べをしたからといって、あながち審理不尽の違法があるとまではいえないし、少なくとも、当審における事実の取り調べの結果を合わせて考えると、仮に原判決に訴訟手続きの法令違反があったとしても、右の違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められない。
以上の次第で、この点の論旨はすべて理由がない。
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