部落解放同盟東京都連合会
資料室 狭山事件の資料室 狭山事件確定判決-INDEX

(自白を離れて客観的に存在する証拠)

 その七 犯人の音声について。

 所論は、原判決は「自白の信憑力」の項で、「五月三日午前零時過ぎころ、佐野屋附近でN・Tが聞いた犯人の音声は、被告人のそれに極めてよく似ていること」を被告人の捜査段階及び原審公判延における自白を補強する有力な情況証拠であるとしているが、警察での声聞きは誤りが伴い易いうえ、被疑者として逮捕された者をとかく真犯人と考え易い心理状態殊に被害者の姉としての被害感情などを考えると、N・Tの証言によっても犯人の声と被告人の声とが同一であるとは断定できないし、また証人M・Hについても同様であるが、殊に同証人が被害者の家族に同情していることなどを考えると、同人の証言によっても、犯人の声と被告人の声とが同一であるとは断定できないというのである。
 そこで検討すると、証人N・Tは、原審(第二回)において、「当夜犯人と三〇米位離れた所で問答した。当夜は静かで声はよく聞きとれる状態であった。被告人が逮捕された後六月一一日にテープで、翌一二日には生の被告人の声を聞いたが、声全体から受ける感じがそっくりであった。声から推定される年齢も二十五、六歳で合っており、なまりも土地の者のそれであった。」旨供述しており、また、民間人として捜査に協力し、当夜佐野屋で張込みをしていたM・Hも、原審(第二回)において証人として、「犯人の声は、土地の方言が入っていたので土地の人だと直感した。被告人が逮捕された後その声を聞いたが、似ていると感じた。」と供述している。これらの証言によれば、右証人らの身分関係、その他所論指摘の諸事情を考慮に入れても、原判決のいうように、「五月三日午前零時過ぎころ、佐野屋附近でN・Tが聞いた犯人の音声は被告人のそれに極めてよく似ている。」と認めるのが相当である。もとより、これによって犯人の声が被告人の声と同一であると断定することができないことは、所論のいうとおりであるが、原判決もこれを被告人と犯人とを結びつける有力な情況証拠の一つとみているのであって、この判断に誤りは存しない。それゆえ、論旨は理由がない。

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