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(自白を離れて客観的に存在する証拠)
その三 血液型について。
所論は、被害者N・Yの膣内に存した精液の血液型はB型であり、被告人の血液型もB型であるからといって、直ちに被告人が犯人であるとは断定できない、殊に被告人の血液型を鑑定するに当たっては分泌型か非分泌型かの鑑定をしていないところ、原審証人渡辺孚は、唾液による接査でB型と出た場合にも分泌型と断定することはできないといっている、また、六・二一員清水利一作成の捜査報告書中には、被告人以外の者についても血液型の検査が行われ、その結果が記載されているけれども、その検査方法は全く不明である、要するに、これまでに現れた証拠をもっては、被告人が犯人であるという情況証拠とはなし難いというのである。
そこで考えてみると、原判決の掲げる五十嵐勝爾作成の鑑定書によれば、N・Yの膣内から採取した精液の血液型はB型(分泌型あるいは排出型)であり、そして被害者の血液型はO・MN型であるから、被害者を姦淫した犯人はB型(分泌型)の血液型であることは明らかである。ところで、原判決が掲げる渡辺孚ほか二名共同作成の鑑定書によれば、被告人の煙草の吸殻と唾液とによってその血液型を鑑定したところ、B型であることが判明したことも明らかである。
してみれば、被告人の血液型がB型(分泌型)で、被害者の膣内に残された精液がB型であるということは、両者の血液型が同一であることに相違はなく、原判決が「5被告人の血液型はB型で、被害者Yの膣内に存した精液の血清型と一致すること」が被告人の自白の信憑力を補強する事実であるばかりでなく自白を離れても認めることができ、かつ、他の情況証拠と相関達しその信憑力を補強し合う有力な情況証拠であると認定したのは、当裁判所としても肯認することができる。
なお、当審における事実の取調として、鑑定人上野正吉は、直接被告人の血液及び唾液によりその血液型をB・MN型(分泌型あるいは排出型)と判定している(昭和四二年五日一〇日付鑑定書)。また、当審で取り調べた八・二九警察技師松田勝作成の「血液型の鑑定・検査結果について」と題する報告書によれば、I豚屋関係者二一名について、五月一六日から同月二三日にかけて血液型の検査が行われた、被告人について五月二二日に行った煙草吸殻による検査ではB型かAB型か判断困難でB型の可能性が大きいということであり、翌二三日に行った唾液による検査ではB型であったこと、被告人以外にはB型の血液型のものが一人もいなかったことが認められる。
さらにさかのぼれば、小川簡易裁判官瀬尾桂一が本件強盗強姦殺人・死体遺棄被疑事件について発付した逮捕状に添付された逮捕状請求書をみると、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることの資料中に「被疑者血液型干係一冊」があったことが認められるが、その内容は前記松田勝が五月一六日から同月二三日にかけて行った血液型の検査結果と同一であったと推認するに難くない。
次に、証人将田政二(第一二回)及び同原正(第一七回)の当審各供述によると、捜査官は、被害者の膣内に残された精液の血液型がB型であることを重視していたところ、I豚屋で五月一日の夜盗まれたスコップが五月一一日に死体発見現場付近で発見されたことから、I豚屋の従業員や出入業者に捜査の綱を絞り、それらの者の筆跡・血液型・アリバイなどを捜査した結果、被告人に嫌疑をかけるに至ったもので、その経過は極めて自然であると考えられる。
また、その過程において、被告人は、豚屋の経営者I・Kから血液型を尋ねられて自分の血液型は一応B型であると思っているのに、A型であるとか、新聞などで報道されている犯人の血液型とは違うとかと答え、五月一日の行動については兄六造の鳶職の手伝いをしていたのであるから自分は大丈夫だなどと嘘の答えをしたことがそれぞれ認められる(その詳細については、証人I・Kの当審(第一五回)供述、被告人の当審(第二七・六六回)供述、当審において捜査の経緯を明らかにする趣旨で取り調べられた被告人の六・九検原調書を各参照。)。
以上を要するに、原判決が被告人の血液型と被害者の膣内に残された精液による血液型とが同一であることを、有力な情況証拠としている点は、当審における事実の取調べの結果によって一層その正当性を肯認することができ、この点に疑問の余地があるとする論旨は理由がない。
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