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(自白に基づいて捜査した結果発見するに至った証拠)
その八 鞄について。
所論は、被告人の鞄類、教科書類を埋めた点に関する自白はあまりに不合理・不自然な点が多く、それにもかかわらず捜査当局が鞄類の発見について絶大な確信をもって捜し出しているのは奇妙であり、捜査当局が既に何らかの方法で鞄類を発見入手し、そこで被告人を不当に誘導して鞄類を捨てた場所の地図を書かせ、その場所に鞄類を置いておき、あたかも被告人の自供に基づいて被害品を捜索発見したかのごとく見せかけるという工作をした疑いがあるというのである。
いかにも、被告人は当審において、初め鞄を捨てた場所として嘘の略図を書いて員関源三に渡したが、その図示した場所はポリグラフ検査の際に検査員から教科書類が出てきた場所を教えられていたのでその場所の近くに鞄もあるだろうと勝手に想像して書いた、自転車の荷掛紐が出た析はテレビを見て知っていた、員関源三が嘘の図面を持って捜索に出掛け発見できなかったといって帰ってくる前に、員長谷部梅吉は「お前がさっき書いた場所は違うだろう、埋めたところは川のところじやないか、その川のところを地図で書け。」というので、地図を書き直して提出した、ところが員長谷部のいうとおりの場所から鞄が出てきたなどといい、所論に添うように不当な誘導によって鞄を捨てた場所の地図を書かされたと供述している。
しかし、鞄類の捜索をした員関源三、同清水利一、被告人の取調べに当たっていた員長谷部梅吉、同青木一夫らの当審各証言によっても、所論がいうような違法な工作は勿論、被告人の取り調べに当たって不当な誘導があったことを窺わせるような状況を見いだすことはできない。なお、鞄の捜索発見の際に立合人となった原審証人M・Saも、立ち合ったときには既に鞄が発見されていたという所論指摘のような供述はしていないし、同証言によっても捜査当局に違法な工作があったことを窮わせるような状況は見いだせない。のみならず、被告人は、原審(第七回)において鞄類を始め教科書類、自転車の荷掛紐を捨てたことを自認しているのである。被告人の当審供述は、これを裏付けるに足りる証拠は何もなく、単なる思い付きの弁解であるとみるほかはない。
次に所論は、被告人の員及び検調書中での鞄類や教科書類を埋めた場所、埋めた順序、埋めた理由に関する供述には不自然なところやあいまいなところがあるばかりでなく、矛盾があり、殊に被告人が鞄の下から発見された牛乳びん、ハンカチ、三角布については記憶がないといっているのも不思議であり、また当時既に相当離れた場所から教科書類が発見されていたのに、被告人が教科書類は鞄と一しょに埋めたといっていることも不可解であり、このように被告人の供述には不合理、不自然なところが多いことからみると、被告人は鞄を捨てた犯人ではなく、そのために鞄などを捨てた場所を知らなかったのではないかと思われ、他に真犯人がいるかのごとくいうのである。 たしかに、被告人は、七・一及び七・二検原調書中で、教科書を捨てた場所は山学校の方から行くと道路の左側で鞄を捨てた場所の近くであるといっており、この供述は五・二五員伊藤操作成の実況見分調書及び六・二二員清水利一作成の実況見分調書、六・二二司法巡査三沢弘作成の現場写真撮影報告書によって認められる教科書の発見現場の状況と相違している。しかし被告人は、原審(第七回)において教科書は鞄と五〇米位離れた場所に埋めたといっており、右の実況見分調書の記載についても殊更争つていないのである。そして、被告人の捜査段階における供述によっても教科書類を捨てる場所まで自転車を押して行ったか、それともどこかに自転車を置いておいたか、そのとき鞄を逆さにしたというがどうして鞄の中に糸巻きや櫛が残っているのか、鞄の下から牛乳びんなどが発見されているのに、被告人はどうしてこれに気付かなかったのであろうかなど、そ際の状況の細部については明らかではない。しかし、このような細部の状況については、捜査官において細心の注意をもって疑問の解明に努め、被告人の供述を引き出しておかない限り、どうしても不明瞭な点が残るもので、ある程度はやむを得ないところである。殊にこの事件では、これらの物の埋没行為は「四本杉」での兇行後N・E方へ脅迫状を届けに行く途中に行われたもので、被告人自身も言っているように、精神的に興奮しており、しかも薄暗い中で急いで行われたことであってみれば、記憶自体が不正確となり、あるいは事実の一部を見落とすことも考えられ、これを理由に被告人自身が教科書類、鞄、荷掛紐を埋め又は捨てた事実までも否定できないことは、原判決が説示しているとおりである。また、被告人の捜査段階における供述に不正確、不明瞭な点が存することから直ちに被告人が犯人でないと断ずることの相当でないこともさきに説示したとおりである。ところで、原判決は「教科書類を埋没する機会に取り出した筆入れの中にあった万年筆一本が被告人の自宅から発見されているのであるから、被告人が鞄類、教科書類を構内及び附近の溝に埋設したとみて差支えなく」と説示しているけれども、被告人は「四本杉」での兇行の後、脅迫状を訂正するためYの鞄の中を探って万年筆を奪取したと認められるのであるから、原判決の認定は万年筆を奪取した時期及び場所については誤っているけれども、その余の判断(ただし、筆入れこついては後に触れる。)はおおむね正当であるから、結論を左右するものではない。鞄発見の経過については、他に捜査の公正を疑わせるような状況は認め難く、当審における事実の取調べの結果を考え合わせても、被告人の自供に基づいて鞄が発見されるに至ったとの原判決の説示は首肯できるから、論旨は理由がない。
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