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第23 異議理由23 自白の心理学的分析に関する原決定の誤りをいう点について

                 

《弁護側主張》

 所論は、要するに、(1)浜田意見書の方法は、自白調書の検証に当たり、自白の嘘の分布が真犯人の嘘の分布であるという仮説と無実の人間の嘘の分布であるという仮説の二つの仮説を立てた場合、いずれがよりよく説明し得るかの判別が可能であるということを前提としてる厳密に学問的な方法であるのに、原決定が浜田意見書の「嘘分析」仮説検証の方法と本件への適用を安易に斥けたのは、優れた学問的方法を軽視するのであって、理由不備のそしりを免れない、(2)山下意見書は、供述についての不自然性の有無の心理学的検討を主軸に、自白の再現実験をも含めて自白の信用性に関する総合的な分析を行っているもので、その説くところは学問的に裏付けられるとともに一般実験の感覚にも適合していて、その証拠価値は高い意見書であるのに、これをたやすく斥けた原決定には理由不備の違法がある、というのである。
 そこで、検討する。

《検討》

(1)浜田寿美男作成の意見書は、捜査官に対する請求人の供述の総体を一つの流れとしてとらえ、その変遷を心理学的に分析・検討することにより、供述内容の真偽を判定しようとするものであり、請求人の供述調書を分析した結果、請求人の自白が真犯人の体験を述べたものでないことは、「もはや1点の曇りもなく明らかである」というのである。同意見書は、この結論に到達するにつき、「供述が供述者の口から発せられたものである以上、変遷・変動・矛盾・欠落などの問題をすべて含めて、その供述全体は、必ず整合的な形で了解できるはずである。これが私たちの供述分析の大前提である。」、「人間の行動・言葉に意味のないものはない。(中略)供述調書のように一連の流れを形づくるものについては、その一つ一つの言葉をかなり正確に読み取ることができるはずである。供述調書は(被疑者の言葉そのままを記録したものではなく、取調官の尋問に対する応答として発せられたものではあるが、そのことを考慮に入れておけば)その言葉の一つ一つをほぼ一義的に理解することができるはずである。」との考え方に立って、「具体的に、請求人の供述を、まるごとその請求人自身の心性の一貫性において理解しようと努めてきた。」というのであるが、原決定が指摘するように、自白変遷の背景事情の解説、意味付けについて、同意見書の説くところは、一つの仮説としては成立し得ても、確定判決審の関係証拠に照らして、必ずしも、妥当なものといえないばかりでなく、その拠って立つ前提自体、供述心理の分析の在り方を説く一般論としてならともかく、心中葛藤し、懊悩しながら逡巡を重ねた末に、捜査官に対して行った強姦、強盗、殺人など重大犯罪に関する自白について、常に妥当するとは考え難く、請求人の自白は犯人の実体験を述べたものでないことが「1点の曇りもなく」解明できたとする同意見書の見解は、容易に受け入れ難いといわなければならない。同意見書は、心理学の立場からの1個の見解であるにとどまり、確定判決の証拠判断、ひいては事実認定に影響を及ぼすに足りる証拠であるとは認め難い。

(2)次に、山下恒男作成の意見書は、犯行の動機、準備、実行過程、盗品等の処分など全過程にわたり、請求人の自白内容を分析した結果、その述べるところは、臨場感に乏しく、客観的証拠から形成される犯人像と一致しないばかりか、請求人自身のパーソナリティーや行動傾向とも一致せず、人間の行動法則や犯罪心理に反する不合理な点が多いほか、認識や記憶の誤り、意味付けの欠落等があり、不自然であって、信用性に乏しいと判定するのである。原決定が指摘するように、同意見書の見解は、犯罪を行う者は、第三者が納得できるような合理的な行動をとり、しかも、その行動と四囲の状況の一部始終を冷静に認識、記憶していて、いったん自白を始めたら、犯行状況などを忠実に脳裏に再生し、これを包み隠さず、的確に表現し、供述するものとの考え方にたっているように見受けられるが、そのような前提が常に成り立つとはいえない。また、同意見書が不合理、あるいは不自然であると指摘するものを検討しても、必ずしも、それが請求人の自白内容を疑わせるものとは言い難い上、自白の一部に、認識、記憶の誤りなどがあるからといって、その内容全体が疑わしいとは限らないのであって、結局、同意見書は、確定判決の証拠判断、ひいては事実認定に疑いを生じさせるものとは認め難い。
 論旨は採用できない。

※《》内の小見出し等は当Site担当者が便宜的につけたものです。決定文にはありません

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