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第18 異議理由第18、同補充第12のうち、腕時計に対する原決定の判断の誤りをいう点について
所論は、要するに、原決定は、「本件腕時計が被害者のものであることは、兄、姉の、前記のような確認の結果により明らかであるばかりではなく、関係証拠によれば、押収にかかる本件腕時計とは別に、業者から借りて右品触れに写真入りで掲載された商品名コニーのシチズン製金色側女持ち腕時計そのものが存在する。」と判示しているが、新証拠である司法警察員遠藤三ほか作成の捜査報告書が明らかにした見本時計借受けの経緯は、発見時計との型の相違を浮き彫りにしたのみならず、被害者の近親者らによる同一性確認には致命的な弱点が潜んでいたことを明らかにしたものであり、その反面、本件発生後間もないころの、予断の生じる余地のなかった5月8日の時点で、複数の買受関係者が捜査官の依頼によってコニーを被害品との同一品として特定し、これに基づき特別重要品触書が作成配布されている事実は、むしろ被害品はコニーであってペットでないこと、換言すれば、発見時計は被害品でないことを指し示すのである。さらに、本件腕時計は、請求人が捨てた旨自供した地点近くの茶株の根元に捨てられていたところを、7月2日、通行中のO・Mによって発見されているが、発見に先立つ6月29日、30日の両日にわたり7、8名の捜査員がくまなく捜索して発見されなかったのであるから、その際にはなかったものと考えるのが自然かつ妥当であって、原決定の誤りは明らかである、というのである。
(1)しかしながら、関係証拠によれば、本件腕時計の発見の経緯は原決定の判示するとおりであり、また、本件腕時計は、シチズン製「ペット」17石角六型中3針金色側(側番号6606、1085481)であって、被害者に腕時計を買い与えた兄N・K、この時計を被害者から時々借用して使用していた姉N・Tらの見分の結果、本件腕時計には、シチズン製金色側六型中3針裏蓋ステンレス、黒バックスキンのバンドという被害者の腕時計の形状、材質等の特徴に加え、バンドの複数の穴のうち、手首の細い姉(手首回り16.5センチメートル)が使用するときのバンド穴と手首の太い被害者(手首回り17.5センチメートル)が使用するときのバンド穴の2箇所が連続していて、普段止め金を通さない他の穴より穿れてやや大きくなっているという、被害者の時計バンド固有の特徴が認められ、姉登美恵の確定判決審の証言によれば、これを試着してみたところ、バンドの大きくなっている穴二つのうちの、内側の穴(手首の細い方の穴)に止め金を通した時、自分の腕に丁度具合よく合致したと述べているのであって、昭和38年7月2日午前11時ころO・Mにより発見された本件腕時計が、被害者の持ち物であることは明らかというべきである。
(2)所論は、本件の特別重要品触れとして、写真入りで被害腕時計とその側番号が掲載されて広く配布されたものが、実は過誤により、参考品とその側番号を掲載していたなどということは、あり得ないことであり、そこに掲載されている側番号の腕時計が本当の被害品に違いないとして、捜査当局の作為を疑うのであるが、本件腕時計が被害者の持ち物であることは、兄、姉の前記のような確認の結果により明らかであるばかりでなく、関係証拠によれば、押収に係る本件腕時計とは別に、業者から借りて品触れに写真入りで掲載された商品名コニーのシチズン製金色側女持ち腕時計そのものが現に存在するのであるから、本件腕時計は被害者の腕時計ではないとする所論の主張が当たらないことは、明らかであるといわなければならない。
(3)所論はさらに、本件腕時計の発見場所が、捜査官によって既に捜索済みの地域であることから考えて、事件発生から約2箇月も経ってから、付近の住民によって道端の土の上で視認、発見されたのは不自然であり、捜査官の作為の疑いがあるというのであるが、関係証拠から認められる本件腕時計の発見現場の状況に照らし、先に大掛かりな捜索が行われながら発見できなかったことは、必ずしも不自然な事態とはいい難い。
論旨は採用できない。
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