Internetと部落差別-INDEX


   

2.部落差別の実態とその特徴

田畑重志さん
反差別ネットワーク人権研究会代表
人権ネットワーク国民会議実行委員会

 さて、今回は前回簡単にまとめた差別事例をもう少し詳しく紹介していくことにしましょう。
 最近では雑誌部落解放や解放新聞で少しずつ事例が紹介されるものの、事例的には多くありません。
 今後IT社会に対応する中で、私たちは当然ネット上の差別にも出会うことが出てきます。そのときに慌てることとなっても遅いということが多々あります。

最近とみに増加しているネット上の「地名総鑑」

 最近とみに増加傾向にあるのは、今までの差別発言型よりも、部落の地名を公募するような形態で、これはさまざまなところが情報源となっています。特に巨大な掲示板で現在特に差別ページ情報として報告の多い、「2ちゃんねる」というページでは、一応「部落の地名などは削除する」となっていますが、実際は何日も放置され、そのままとなっています。「東京の部落ってどこ」と訊ねている内容もあり、多くの人がこのページでの特に地名を知ることに興味をもっている現状が伺えます。これは部落の地名を知ることで勉強をしようとか訪れて差別の実態を知ろうということに使われているのではありません。まるで何かを収集するかのように地名リストを作り、公表したり実社会で身元調査などに使用される危険性が多々あるのです。
 また、こうしたところに寄せられた情報は最近では、詳しく精密さをますようになってきました。以前ではおおまかな地名のみでしたがこうした事例だけ見ると私たちの故郷は「差別を目的に好奇心」で地名を公表され、全国に知らされているようなそら恐ろしさすら感じます。前回取り上げた、海外サイトを利用した部落地名総鑑のページでは東京都だけで11箇所が掲載されています。他にも埼玉県など関東地方の名前をあげ、これを「特殊部落地名年鑑」とするつもりであったと作者はホームページで記しています。
 こうした部落の地名などを情報として流し差別に利用するための情報を「差別情報」そして差別用語のみが記載された内容を「差別発言」と分けて少し法律的な面から考えてみましょう。

法的な規制について

 こうした部落地名リストなどの差別「情報」を法律的に規制する方法はないのでしょうか。
 まず一つに大阪大学法学部教授の松井茂記さんはその著書の中で表現の自由の問題と照らし合わせながらも憲法上「危害を加えることの扇動」「違法な差別を扇動」し、実質的な危険性が存在していれば合憲とできると解釈しています。(インターネットと法・有斐閣)
 こうした地名リストなどが公募され、公表されることで新たな部落地名総鑑が作られれば、結婚差別や就職の際の身元調査に使用される実質的危険性は十分にあります。そういう意味では、現在の憲法下で規制は可能なのです。
 しかし、現在は個人情報保護法の中間まとめなどこれから更に整備されるであろう、プライバシー保護に関する法律案などいくつかの内容を見る限り、こうした問題には触れられていませんし、又非常に曖昧で国民にだけその責任を負わせた不十分なものでした。
 また今回成立した人権教育啓発法には解放新聞などでも部落解放同盟の見解の中で示されたように不十分な面が多々あり、現在の人権教育啓発法を使用しての効果は未だこれも不十分だといえるでしょう。
 名誉毀損、侮辱罪などの現行法の適用に関しても、「○○という人物に対して誹謗中傷を行った」というものではない差別情報の場合では、難しい面が多々あります。
 それでは具体的にどのような法的整備が必要なのでしょうか。その全てを今回は書くことはできませんが、まず一つにはさまざまな差別情報の内容について我々がネット上の問題により目を向けていくことが必要だといえるでしょう。しかし、それにはまずこの問題を「どのように捉え」「どのように対処するか」という本質と手法が明確になっていなければなりません。そのことについてはまた次回に触れたいと思います。

(つづく)


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