Internetと部落差別-INDEX


1.ネット上の人権啓発も重要な課題に

田畑重志さん
反差別ネットワーク人権研究会代表
人権ネットワーク国民会議実行委員会

 インターネットが両刃の剣だとはよくいわれることです。例えば我々にとって、インターネット社会の活用が進み、これに対応できることができれば、正しい情報の発信や高齢化社会への対応もスムーズにいくことでしょう。
 しかし、例えば高齢化社会への対応も含むIT社会への対応という側面を見ても、インターネットに対応できない人々の情報格差や、また都市部落と農村部落などの地域的格差が被差別部落でも生まれる可能性があり、この問題はそれぞれに利点と問題点とを双方に慎重に考えるべき課題でもあります。
 情報発信という側面においても、インターネット上の問題は特に深刻です。部落の地名リスト、芸能人部落在日リスト、差別表現による被差別部落に対する誹謗など、私たちは今この問題の対応に早急に対処しなければならない時代にきています。私個人にある年間50件以上の報告件数と実際の重複したものを除いた約20件ほどの事例は、私たちの実社会の事例と酷似しています。

話し合いさえ阻む壁が

 一つの事例として「部落の地名リストをつくりましょう」「部落地名総鑑」をつくりましょうなどの呼びかけは、海外のサーバーや国内サーバーも含め年間5から10件現れ、この傾向は特に増加しています。これらの問題に対して、まず発信者に対応を迫りますが、こうした差別的なページをつくることが目的である管理者とは話し合いにすらなりません。「表現の自由である」といった表現の自由の濫用、開き直りが多々みられます。通信管理会社に対応を迫っても残念ながら、即時削除などの対応をするところや本人と話し合いをせよと突っぱねるところなど多々あります。海外のサーバーの利用について、今までは対応するのに大変な時間がかかるなど困難を伴っていましたが、国連人権委員会決議や部落差別とは何かという英文をつけて、対処を迫ると、即時対処するなど、こうした面では国内の通信管理会社よりも対応が早く、再発防止の為の方策についての協議も「良い機会なので問題のあるページを教えて欲しい」と積極的です。こうした国内と国外の企業意識の違いも大きな問題ですが、私は決してただ削除を求めているだけではありません。
 プロバイダーに対して、通信の秘密という観点から相手の名前などを知らせることはできないにしろ、当事者と話し合いができないものか、とまず模索します。差別表現は消せばよいという理論的にも閉鎖や削除のみに陥った場合、残念ながら自分の差別意識をみつめなおすことなく削除されたことだけに怒り、差別ページを作りつづけます。こうしたことがいたちごっこといわれる原因でありまた一番の問題点でもあります。こうした面を解決するためにも、今後もこうした企業啓発を含めた取り組みをさまざまに行う必要性もあり、それには個人だけではなく、国や地方自治体、運動団体が中心となったさまざまな利用者層や企業も含めた人権教育啓発の必要性があります。

次の世代に問題を伝えていくことの大切さ

 また同時に部落問題の解決のために英語圏などのサーバーに対する理解も深めねばなりません。そして現在、こうした人権に関する取り組みが特に必要なのは次世代を担う子どもたちです。現在、ゲーム機器を含め、パソコンを使用しなくてもインターネットは使用できる環境にあります。つまりインターネット利用の低年齢化です。こうしたことは現在オーストラリアなどの諸外国では子どもたちと親の中で全く会話がされないなどの事例として出ており、こうした問題についてオーストラリアの団体では家庭で子どもたちと一つのモラル、規定をつくり、こうした問題に草の根から取り組んでいこうという取り組みもなされています。最近ある中学生徒が学校の先生に対する誹謗をホームページで実名で繰り広げ問題となりました。しかし、ここで注目したいのは、この問題性とともに今では簡単にホームページが中学生でもつくれるということ。そしてこれについて大人と呼ばれる人々の方が右往左往している状態であったことです。
 私たちにとって次世代を担う子どもたちの世代となったとき安易に考えてもインターネット利用は今の何倍(現在は2000万人)かにはなるであろうと考えられることです。そのためにはまず情報教育が今後進められている中で、人権教育・同和教育を情報教育の中で取り入れた教育が必要です。現在の情報教育は「パソコンを使用できるための教育」であって、パソコンを車にたとえれば決して安全に事故の無いようにモラルを守って取り組む教育ではないのです。
 「車はすばらしい。車は最高である」といった教育だけがなされ、その根底にあるプライバシーの問題などさまざまな人権に関する問題は取り組みがなされていません。
私が最近こうした側面から講師として呼ばれるのは、実際にこうした面に教育者がきづきはじめたといえるかもしれません。
 しかし、全体に見ると未だに問題点が理解されているとはいえないのです。そのためにも今後、インターネット上の部落差別を根底からなくすためにも、さまざまな機会を利用した人権啓発の取り組みは必要となるでしょう。また削除閉鎖といった最終的な手段と共に大いに取りくまなければならないといえるでしょう。

(つづく)


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