差別排外主義の強まりに対抗し、東京都は早急に「いかなる種類の差別も許されない」という理念を都内の隅々まで浸透させよ



 東京都の人権政策の柱の一つは、2018年に成立した「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(以下「東京都人権尊重条例」)」である。この条例は「東京都が、啓発、教育等の施策を総合的に実施していくことにより、いかなる種類の差別も許されないという、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となること」を目的としてつくられた。この条例が制定され7年目を迎えているが、目的はどこまで達成されたか、人権尊重理念がどこまで「浸透したか」が問われなければならない。

 その「浸透状況」を見る1つの指標として「人権に関する都民意識調査」がある。直近では2024年の7月に実施している。部落差別意識については、約10年前(2013年)に実施した「意識調査」と比較して、改善傾向にはなく、むしろ悪化傾向にある。例えば、被差別部落出身者との結婚に対する態度を聞いた設問に対して、「結婚する」という態度を示した人は、2013年調査では57%いたが、2024年調査では40%と約10年間で17ポイントも減少している。しかも4割しかいないという結果になっている。まさに緊急的対策が必要なレベルではないだろうか。

 こういった人権意識の低下傾向の中、差別排外主義が強まっている。東京都は「東京都人権尊重条例」に基づき通報があったヘイトスピーチを公表しているが、2023年度13件、2024年度12件と通報があったものだけで10件以上となっている。また、東京法務局が取り扱った人権侵犯事件は2023年51件、2024年65件と50件以上を記録している(すべてインターネット上の案件である)。これらの数字は東京都や東京法務局に通報されたものだけなので、実態はこれ以上の数に上ると思われる。

 このような差別排外主義の広がりは、在日コリアンを含む外国人に対するものだけではなく、被差別部落、セクシュアル・マイノリティ、アイヌ民族などにも及んでいる。東京都は広がりを見せつつある差別排外主義に対抗すべく、差別を許さないという発信を強め、また、差別禁止を明確にした「東京都人権尊重条例」に改正すべきである。

 また、人権啓発においてもマスメディアとの連携を強めたり、インターネットを最大限活用したり、区市町村との連携をより強固にするなど、正しい認識を幅広く伝える啓発手法を開発していかなければならない。

 さらに、教育においても私立学校を含むすべての学校で人権教育を推進する体制の確立が急務である。それは社会教育でも同じである。東京都は「粘り強く啓発する」と度々口にするが、もはや「粘り強く」の段階ではないことを知るべきである。もっと大胆に広範囲に集中的に人権啓発をしなければ差別排外主義こそ「隅々まで浸透してしまう」危険な時代を迎えてしまう。

 来年は、部落差別解消推進法、ヘイトスピーチ解消法、障害者差別解消法が成立して10年になる年でもある。国も10年間を総括し、国際的要請に応え、包括的差別禁止法、国内人権委員会の設置を急ぐべきである。

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