2009年9月、狭山事件の第3次再審請求を審理している東京高裁刑事第4部(門野博裁判長)は、東京高検、狭山弁護団に対して三者協議を呼びかけ、「弁護団が求める『殺害現場とされる雑木林の血痕反応検査報告書』など、約29項目にわたる未開示証拠の有無」について、10月末までに回答するよう東京高等検察庁に求めた。
未開示証拠の有無について裁判長から回答を求められた東京高検は、10月30日、東京高裁に「『血痕反応検査報告書』は存在しない。その他の証拠については、その有無を回答する必要を認めない」と回答をしてきた。
狭山事件の被害者の遺体後頭部には、生前にできたと見られる大きな傷があり、鑑定によれば、この傷から「殺害現場」にかなりの量の血液が流れ出たと考えられ、事件当時、雑木林の血痕反応は間違いなく調べられたはずである。現に、当時埼玉県警で雑木林の調査を担当した元鑑識職員は、「雑木林の血痕反応を調べ、報告書を作成した」と証言している。また、法務省刑事局長も、過去の国会答弁で「狭山事件の未開示証拠の中に現場の『血痕反応検査報告書』がある」と認めている。その他の証拠の有無について明らかにしなかったことも含めて、検察の姿勢は明らかな証拠の隠ぺいであって到底認めることはできない。
こうした検察の回答と弁護団の追求を受けて、三者協議が2009年12月16日再び開かれ、門野博裁判長は、東京高検に対して、8項目の証拠開示(「殺害現場」に関わるものが4項目)等と、先の「回答」で検察が「存在しない」とした「血痕反応検査報告書」についても、「刑事捜査の常識から考えて、存在しないとは考えられない」として開示を勧告し、重ねて、「もし本当に存在しないなら、その理由を明確にするように」と指示したのである。
今回裁判所が三者協議に踏み出し、さらに「証拠開示勧告」にまで踏み込んだ背景には、これまでの様々な社会情勢の変化もあるが、何よりも私たちが長年にわたって取り組んできた狭山再審運動が着実に世論を動かし、狭山事件を巡って今多くの市民が再審開始を支持しているという事実こそ、最大の要因であることは間違いない。
もちろん、情勢をただ楽観してはいられない。今回の開示勧告は再審開始への第一歩ととらえ、気を引きしめて、さらに闘いを強化し、世論を広げて再審─完全無罪を何としても勝ち取ろう。
狭山闘争の長い歴史の中でも最大の山場となっているいま、私たちは、来る2月12日に開催される「狭山事件の再審を求める東京集会」を機に、東京における狭山第三次再審闘争のさらなる高揚と広範な世論を喚起していく。集会では狭山東京実行委員会による狭山事件朗読劇「HOLD
SAYAMA’S LAST CHANCE」が行なわれる。ひとり一人がもつ、かけがえのない人間の誇りを狭山事件を通じて見つめ直し、狭山完全勝利という私たちの夢の実現に向って、今こそ、誇りをもって闘おう、という内容の朗読劇である。「狭山東京集会」を成功させ、「開示勧告」をバネに引き続き広く市民に訴えを続けていこう。再審の門をこじあける最後の一瞬まで気を抜かず再審開始を実現しよう