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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)
その一六 玉石・棒切れ・ビニール片・○△青果の荷札・残土・財布・三つ折財布・筆入れについて。
(4)死体埋没穴の残土の処理について。
所論は、八幡鑑定を援用して、農道を掘って穴の中に死体を入れ、その上に土をかけて死体を埋めると、多量の残土が出るはずであるのに、大野喜平作成の実況見分調書をみても、残土に触れた記載がないし、被告人も自白調書中で残土を処理したと供述していない、したがって、現場の状況からみて、犯人は残土をいずこかへ持ち去ったか、あるいは極めて丁寧な作業で相当広範囲にその付近に均一に散布したかのいずれかを想定するほかはない、被告人の自白にはこの点の説明がない、かように白白が客観的事実と相違することは、被告人が犯人でない証左であるというのである。
五・四員大野喜平作滅の実況見分調書には残土に関する記載がないが、同調書によって認められる死体を埋没した穴の大きさ、付近の土質などからみて、、死体を入れて土を埋めもどした場合に、少なくとも死体の体積と同量ほどの残土が出るであろうことは推認するに難くない。しかし、その場合の残上が現実にどの位であるかは、その埋めもどし作業の方法いかんによって変りがあり一概には断定できない。現に、八幡鑑定にある埋めもどしの二つの実験例をみても、残土の量が極端に相違しているのである。すなわち、実験例のうち、あまり踏み固めをしない場合には、残土の量が一.四七瓩(石油かん約一六杯分)であるのに、埋めもどしに際してかなり踏み固めをした場合には、残土の量が九二瓩(石油かん約六杯分)ということであり、踏み固めの程度によって残土の量が約二分の一に減少しているのである。しかも、同鑑定では「火山灰土では一般に作業を丁寧にやれば踏み固め後の土量と自然状態との比を1以下になしうるというのは土木施工上の常識であって、本実験でも後者の場合に踏み固めが全層に亘って穴の中央部並みに行われたならば、全土量が残土なしに穴の中にもどったはずだという計算結果が出た。」と述べており、これによれば踏み固めを十分行えば、残土はほとんど出ないことが推認できる。しかも、同鑑定によれば、踏み固めを十分行っても穴を掘り死体を埋没するに要する時間は、実験例での約三〇分ないし三五分の作業時間よりもさほど長時間を要しないことが推認できる。
しかるところ、死体発掘地点近くの畑で農作業をしていた証人S・Yoは原審(第三回)において、「五目二日、三日、四日の連日、死体発見現場の農道を通った、そこの土が変わっていたので、これは犬か描でも埋めたものかと思っていた。その土の所は平らになでてあった。穴の上には乗らないけど、何の穴だろうと思って足のかかとと、爪先でこいでみたところ、爪先がこの位引っ込んだ、引っ込まない所もあった。」と供述しており、また、五目四日消防団員として山狩りに参加した証人H・Kiは、原審(第三回)において、「一米位地割れがしておりましたので、棒で二、三回つつきましたら、軟らかいために穴があいた。」と供述しており、これらの証言によると、残土については触れていないが、埋めもどした後は平らに地ならしされていたこと、降雨のために(航空自衛隊入間基地司令名義の「気象状況について」と題する書面によると、五目一目から二日にかけて三十数粍の降雨があったことが認められる。)掘った部分が沈み込み、地割れしていたことが認められる。
そして、この点についての被告人の供述をみると、七・六検河本調書中で「死体を埋めた穴を掘った土は、その脇の麦畑や茶の木の方に放ったのだが、穴に死体を入れてから、その土をかけて大体平らにした訳です。だから麦畑辺りに掘った土の残りが、そのままあったかも知れません。」と供述しており、これによれば、被告人が埋めもどした後に穴の上を押さえて平らにしたことが窺われ、また、残土はさほど多量ではなく、それもあたりにまき散らしたままになっていたと認められる。
加えて、一件記録に徴すれば、被告人はかって土建業西川正雄方に雇われて土方仕事をした経験もあるうえ、人並み優れた体力と腕力の持主であることが認められるのであるから、スコップで農道の土を堀り起こし、近くの芋穴から死体を引き上げ、これを掘った穴の所に運んで穴に入れ、穴を埋めもどして踏み固めるという一連の作業を迅速、的確に行い得たであろうことも推測することができる。
叙上の関係証拠に徴すれは、残土はさほど多量ではなく、その残土も被告人が麦畑などにまき散らしたままになっていて、降雨によってその痕跡がなくなったものと推認できる。そうだとすれば、大野喜平作成の実況見分調書中に残土に関する記載がないことも格別異とするに足りないことであり、被告人が埋めもどしの方法について詳細な供述をしていないからといって、残土処理に関する自白に疑いがあるとすることはできない。
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