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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)

 その一二 死体について。

(四)後頭部の創傷について。

 所論は、死体の後頭部には大きな裂傷がある、これについて上田鑑定は、「もし解剖鑑定人の考える如く、後頭部損傷を来たしたのは被害者が窒息を来たす頃かその少し前に受けていると仮定すると後頭部損傷は皮膚に裂傷を来たす程の損傷を受けているのだから被害者は一時的にしろ意識不明状態になっていると考えねばならない。」、「この場合には後頭部損傷よりかなりの出血があると考えるのが常道で、後頭部損傷の周囲皮下には凝血が多量に付着しておるべきはずである。」、「うつ血がおこっても後頭部が体下方になっている限りにおいてかなりの外出血が考えられよう。」と述べている、しかし、被告人のどの供述調書をみても被害者が殺される前に既に意識不明の状態にあったという供述は見たらないし、多量に見られる筈の出血についても何も触れていない、殊に、被告人が述べるような方法で死体を芋穴まで抱きかかえて運んだとすれば、被告人の右手、右の手首、右の抽口などに血痕が付着しそうなものであるが、血痕が付着したとの供述もなければ、それに見合う物証もない、四本杉や芋穴からも血痕は発見されていない、被告人の自白は客観的事実と相いれない虚偽の事実を述べたものだといわぎるを得ない、なお、上田鑑定は「私は明確な判断を下すことはできないが創傷の皮下に擬血があり生前の傷であるという点にかなりの疑問をいだくものである。」と述べており、五十嵐鑑定が述べているように後頭部裂傷が果たして生前のものかどうかにも疑問があるというのである。
 いかにも、上田鑑定は死体の後頭部に存する裂傷について指摘のとおりの意見を述べており、被告人は員及び検調書中でこの裂傷や出血について触れた供述をしていないし、殺害の現場付近や芋穴の付近で血痕が発見された形跡は窺えない。
 しかし、後頭部の裂傷の成因について、五十嵐鑑定は「後頭部の裂創は、その存在部位、損傷程度、特に創口周囲の皮膚面に著明な挫創を随伴せぎる事よりみれば棒状鈍器等の使用による加害者の積極的攻撃の結果とは見做し難い(勿論断定的否定ではない)。むしろ、本人の後方転倒等の場合に鈍体(持に鈍状角稜を有するもの)との衝突等と見做し得る。」と述べており、上田鑑定も「五十嵐鑑定書に記載されている如く創口周囲の皮膚面に幅のせまい挫創を伴っておらないことにより棒状鈍器等の使用による加害者の積極的攻撃の結果とはみなし難く、本人の後方転倒等のため鈍体との衝突の可能性を考えるのがよいであろう。」といっていること、更に加えて「後頭部に比較的大きな石等を緩く衝突させても、その上部を被う毛髪がかなりあるため衝撃力が吸収され上述のような傷となるかも知れない。」ともいい、出血が少ないとすれば「私は明確な判断を下すことはできないが、創傷の皮下に凝血があり生前の傷であるという点にかなりの疑問をいだくものである。」とも述べてさほどの傷害とはみていないこと、また、五十嵐鑑定人が後頭部裂傷が意識不明の状態をきたす程のものであれば必ずその旨の記載をしたであろうのに鑑定書にその旨の記載がないことなどを考え合わせると、右の後頭部の裂傷は披害者がそのために意識不明になる程の傷害であるとは認め難い。
 また、本傷からの出血の多寡についても、上田鑑定は五十嵐鑑定の写真をみて判断をしているが、写真による判断にはおのずから限界があること、直接死体を解剖した五十嵐鑑定人の鑑定書に外出血についての記載がないことからみて、本傷による外出血があったとしてもさほど多量ではなかったと考えるのが相当である。
 なお、捜査当局において、本件の殺害現場、芋穴の中及びその問の経路等につき血液反応検査など精密な現場検証を行っていたならば、本傷による外出血の存否は明らかになったことであろう。しかるに、被告人の着衣や披害老の着衣に血痕が付着していたかどうかについてすら鑑定がなされていない。
 これを要するに、被告人が後頭部の傷害について供述していないのは、客観的事実と相いれない虚偽の自白であるとか、被害者の着衣及び被告人の着衣並びに犯行現場から血痕が発見されていないのは奇怪であるとかいう論旨は、失当である。

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