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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)
その一二 死体について。
(七)被害者のスカートの破損と上着のボタンの脱落について。
所論は、被害者のスカートが破れていることは明瞭な事実であるが、スカートはいつどうして破れたかは明らかでない、被告人は七・五検原調書中で、「スカートが破れているのは芋穴から引き上げる時、Yちゃんの足が穴から外へ出て体を引き出す時にスカートをつかんで引っ張った様な気がするのでその時と思います。」と述べているが、被告人はこれより先の七・三員青木調書中で「破けたという音は気がつかなかったが、もし破けたとすれば穴ぐらへ入れる時か出す時と思います。」と述べており、これをみると検察官は、被告人が員調書でスカートをつかんで死体を吊り下ろしたと供述しているが、それでは、死体が芋穴の底に墜落してしまうことになるので、被告人を不当に誘導して死体を芋穴から引き上げるときに破れたと供述を訂正させ、つじつまを合わせたもので、被告人が記憶を喚起して進んで真実を吐露したものではない、死体を芋穴から引き上げる際に破れたとすれば、吊り下ろす際と同様に死体は芋穴の中へ墜落してしまうに違いなく、また仮に死体が既に芋穴から半ば引き出されていて墜落しないような状態であっても、死体の全重量がかかるのでスカートは破れるどころかすっぽり外れてしまうのではないかと思われる、スカートが破れた原囲についての被告人の供述は到底信用できない、また、被害者が着ていた上着のボタンが二個脱落していることは明らかな事実であるが、うち一個は発見されていないし、被告人は七・三員青木調書中で「(芋穴まで)抱いて運んだのですが、私はその時Yちゃんが着ていた服のボタンはかけてあったと思います。もしその時ボタンが外れておれば服がダラリと下がるはずですが、その時は下がっていなかったと思います。」と述べ、七・八検原調書中で「Yちゃんの身体は穴の璧に擦れながら引き上げられたわけです。Yちゃんの体が穴の外に半分位出たころ、制服の上着をつかんで引っ張った様に思います。上着のボタンがちぎれているかどうか知りませんが、ちぎれているとすればその時だと思います。それ以外の時にはちぎれる程上着を引っ張ったことはありません。」と述べているが、もし、死体を芋穴から引き出す際にボタンがちぎれたとすれば、芋穴の中か芋穴の付近でボタンが発見できたであろうのに、だれもボタンを発見していないのである、自白からすれば当然発見されてしかるべきボタンが発見されなかったのは、ボタンは自白と異なり、別の場所で、被告人の知らないときに脱落したに違いない、いずれにしても、被告人の自供内容と客観的事実とは食い違っていて、自白には信用性がないというのである。
しかしながら、前掲七・五検原調書の供述内容が検察官の不当な誘導によって得られたと窺うに足りる事情は見いだすことができない。被告人は、原審(第七回)においても「死体を穴の中から出すときスカートを持って引っ張ったのでそのとき破れたと思います。」と供述しており、七・五検原調書中で供述しているように「死体の足が穴から外へ出て体を引き出すときにスカートをつかんで引っ張った。」とすると、死体の重量がさほどスカートにかかる状況ではないと認められるから、死体が芋穴の中へ墜落したり、スカートがすっぼり外れてしまうことはないと考えられる。
次に、死体の発掘状態について実況見分をしその調書を作成した証人大野喜平の原審供述によれば、死体発見時には被害者の上着のボタン三個のうち一個が脱落していただけで、他の一個は死体をN家へ運搬し、解剖するまでの間に脱落したものであることが認められる。たしかに、脱落した二個のボタンのうち一個は発見されず、被告人もそのボタンは死体を芋穴から引き上げるとき脱落したと思うと述べているだけで、いつどのような機会に脱落したかについて明確な供述をしているわけではない。しかし、本件犯行の態様に徴すれば、被告人が被害者を強姦し、殺害した後、死体を理投するまでの問に右のボタン一個が脱落する可能性は十分あり、この間に被告人がボタン一個の脱落に気付かなかったとしても、少しも異とするに足りないことである。これを要するに、所論は合理的な疑いというよりはむしろ憶測に過ぎないというほかはなく、自白と客観的事実との間にそごは見いだせない。それゆえ、論旨は理由がない。
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