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総括として。
以上、客観的証拠(証拠物、鑑定結果その他信用するに足りる第三者の証言等)を中心に据えて、これと被告人との結び付きを個別的に検討してきたのであるが、これを総合的に考察しても、被告人が犯人であることに疑いはない。すなわち、(1)N・E方に届けられた脅迫状(封筒のあて名部分を含む)は被告人の筆跡であること、(2)五目三日佐野屋付近の畑の中から採取された足跡三個は、被告人方から押収された地下足袋によって印象されたものと認められること、(3)被告人の血液型はB型(分泌型)で被害者の膣内に存した精液の血液型と一致すること、(4)被害者を目隠しするのに使われたタオル及び同女の両手を後ろ手に縛り付けるのに使われた手拭につき被告人は入手可能の地位にあったこと、(5)死体埋没に使われたスコップはI・K方豚小屋から五月一日の夜間に盗まれたものであるが、被告人はかって同人方に雇われて働いていたことがあって、右小屋にスコップがあることを知っており、容易にこれを盗み得たであろうこと、(6)N・E方の近所のU・Kが、脅迫状がN家へ届けられたころ、U方を訪れてN・E方はどこかと尋ねた人物は、被告人に相違ないと証言していること、(7)五目三日午前零時過ぎころ佐野屋付近で犯人の音声を聞いたN・T及びM・Hiは、いずれも犯人の声が被告人の声とよく似ていると証言していることなどの状況は、被告人の自白を離れても認めることのできる事実であり、かつこれらの状況は相互に関連しその信憑力を補強し合うことによって、脅迫状の筆跡が被告人の筆跡であることを主軸として被告人が犯人であることを推認させるに十分であり、この推認を妨げる状況は全く見いだすことができない(このことは、先に述べた本事件の捜査の経緯に徽しても明らかなところである。)。しかも、被告人の自白に基づいて調査した結果、(8)六月二一日には、被害者の所持品の鞄が発見され、(9)被告人が五目一日N家へ脅迫状を届けに行く途中鎌倉街道で追い越されたという自動三輪車は吉沢栄運転のものであったこと、また、被告人がN方近くの路上に駐車しているのを見かけたという自動車はO・Toの車両であることが判明し、(10)六月二六日には、被告人のいうとおり、自宅勝手場出入口の鴨居の上から被害者の所持品である万年筆が発見され、(11)七日二日には、被告人が捨てたという場所の近くから、被害者の所持品である腕時計がO・Maによって発見され、警察へ届けられており、これらの状況を併せ考えると、被告人が犯人であることにはもはや疑いはないというべきである。
加えて、死体の状況や死体と前後して発見された材証拠物によって推認できない犯行の細部の態様について、被告人は詳細に供述しており、かつ、自白と物的証拠との間に合理的疑いをもたらす程の矛盾は認められない。
ここで被告人の自白と客観的状況とが合致する一例を補足すると、被告人は三人犯行を自白した初期の投階である六・二一員青木調書(第二回)中で、「私はNさんの庭の西側の端を通って家の西端から玄関の方へしゃがむようにこごんで行きガラス戸とガラス戸の合わせめの下の方から三尺位の高さのところへ手紙をさしこんできました。その時すきまからみたら家の中には小母さんのような人がいたようでした。」と供述しているところ、五・四員関口邦造作成の実況見分調書添付の写真(二冊五三一丁)及び原審検証調書添付の写真(2)・(3)を見ると、N方の玄関の二枚の引戸は腰板の上部が四段のガラス張りで、ガラス張りの下から二段目が素通しになっており、被告人のいうとおり、そこから内部の様子を窺うことができることがわかる。この点、被告人の供述内容は客観的状況と一致していて信用度が高く、たくまずして犯人でなければ知り得ない事実を露口重していると認められる。
なお、原判決も説示しているところであるが、他に共犯者がいる疑いは全くなく、犯行の態様、殊に犯行が長時間にわたっており、その場所的関係も広範囲に及んであるけれども、被告人の体力や腕力からみて、単独で犯行を遂行することは十分可能である。
しかして、被告人の当審公判延における供述は、詳細かつ具体的ではあるが、既に検討を加えてきた関係証拠に照らして、到底信用することができない。
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