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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)

その一六 玉石・棒切れ・ビニール片・○△青果の荷札・残土・財布・三つ折財布・筆入れについて。

(6)三つ折財布について。

 所論は、被告人は、自白調書中で被害者の身分証明書が入っていた三つ折財布を奪取したと供述しているが、「(その中に)金が入っていたかどうか記憶していません。」とか「金が入っていたかどうか見ていないのでわかりません。」とか、更に「女学生が持っていた腕時計とポケットに入っていた三つ折位の財布を盗って自分のポケットに入れました。…その財布は後でYちゃん方へ行く途中でどこかになくしてしまいました。」(六・二五検原調書第一回)とか、「Yちゃんから盗った財布は前に言った様にジャンパーのポケットに入れておいたところ、いつの間にかなくしてしまい、帰ってみたらポケットにありませんでした。」(七・二検原調書第一回)などといい、不自然であるばかりでなく矛盾した供述をしているのである、すなわち、自白によると、殺害後三〇分以上も桧の下でこれからの行動を考えたというのであるから、奪った財布の中味を点検するはずだし、その機会も十分あったはずである、にもかかわらず、財布の中味をちらりとも見ようとしない、その無関心さは自白の信憑性を疑わせるに十分である、また、財布をいつの間にかなくしてしまったというが、一緒にジャンパーの右ポケットに入れておいた腕時計が残ったのに、ポケットから腕時計よりも落ちにくい財布の方を紛失したというのはいかにも不自然な供述である、更に、仮に財布を紛失したとしても、その後大規模な捜索が行われたのであるから、必ず発見されてよいはずであって、このように三つ折財布が発見されないことは、何人かの手、つまり犯人の手によって現在も保管されているとみられる可能性があるというのである。
 そこで考えるに、被告人は、捜査段階及び原審公判廷を通じて、身分証明書は三つ折財布の素通しになっているところに入っており、その三つ折財布は被害者を松の木に後ろ手に縛り付けた際に、被害者の上着のポケットから奪取したと供述している。もっとも、七・八検原調書中では「Yちゃんの財布は三つ折りの様に思いますが、……Yちゃんが持っていたという写真を入れるビニール製の手帳の様になった物だったかも知れません。私は盗った財布の様なものの上から写真を貼った紙がセルロイドの下に見える様になっていたので、それを開けて、内側から、その写真を取り出しました。」と供述している。
 ところが、証人N・Tの原審(笥七回)供述、S・Toの七・一検調書及びK・Yoの七・三員調書によれば、被害者は、身分証明書を中学校の卒業記念に贈られた手帳の表紙が素通しになっているところに入れていたことが推認され、そのほかに三つ折財布なるものを所持していなかったことが明らかである。したがって、被告人は身分証明書が入っていた手帳のことを三つ折財布といっているものと思われる。
 ところで、被告人は所論が指摘するとおり、身分証明書が入っていた三つ折財布はジャンパーの右ポケットに時計と一緒に入れていたところ、自宅へ帰る途中これをどこかで紛失したといっているが、当審で取り調べた一二・一八鵜川勝二作成の「カラー写真投影報告書」の写真をみると、被告人が当時着ていたというジャンパーのポケットは深く、被告人がいうようにそのポケットから三つ折財布だけが落ちるとはまず考えられない。そして、被告人は、当審(笥七回)公判廷に証人として出廷した員青木一夫に対し、「青木さんなんかが調べている間に、財布はどこへやったのかと言ったので、結局、俺は捨てたと言うとうまくないから風呂場で燃しちゃったと言ったんだね。そしたら、長谷部さんが、なんだ燃しちゃったのか、それじゃ、そんなものはしようがない、そんなものはしようがないからなかったことにしちゃおうかと言ったので、俺は結局どこかへ拾てたというと、どこへ捨てたと言われるので、ただ燃しちゃったと言えばわからないと思って灰になっちゃったと言ったら、それじや、しようがないと言って、…」などと発問しているが(この発問に対して、青木証人は「そういうふうな供述があれば調書に書いてあると思う。捜査官としては燃しちゃったらしようがない、なかったことにしようなどというはずはない。」と答えている。)、この被告人の発問をみると、被告人は捜査段階の供述と相違して、奪取した三つ折財布を自宅で燃したと供述したことがあるというのである。なお、被告人は前段で述べたようにチャック付財布についてはこれを奪取したことを否認しているほか、先にみたように多くの点において必ずしも真相を告白しているとは考えられないのである。以上の諸点を考え合わせると、被告人の三つ折財布を紛失したという供述もにわかに信用することができず、被告人はこれを風呂場で燃すなどして罪証を穏滅した疑いさえあって、被告人はこの点について故意にいいかげんな供述をしているものと認めぎるを得ない。
 要するに、その処分関係は不明であるが、被告人が身分証明書そう入の手帳一冊を被害者から強取したことには疑いの余地がない。

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