部落解放同盟東京都連合会

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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)

 その一二 死体について。

(三)死体左側腹部、左右大腿部に存する擦過傷について。

 所論は、死体左側腹部、左右大腿部などには、極めて顕著に線状の擦過傷がみられる、すなわち左十嵐鑑定によると、「左側側腹部より左鼠蹊部にわたり上外側より下内側に向い走る線状擦過傷多数が集簇性に存在す。」、「右大腿の前外側面に於て、鼠蹊溝直下の幅約一三・七糎、上下径約一六・〇糎の範囲に上内側より下外側に向い互に平行に斜走する線状擦過傷多数が存在す。」「左前大腿部に於て、鼠蹊溝直下で左右径約一〇・二糎、上下径約」八・〇糎の範囲内に互い平行に縦走する細線状表皮剥脱多数が存在す。」、「下口唇左半部より顎部左半部にわたり平行にほぼ縦走する線状擦過傷四条存在す。」、「右前下腿部に於て、脛骨縁に沿い縦走する線状擦過傷若干が散存する。」、「左前下腿部に於て脛骨縁に沿い線状擦過傷若干が存在する。」と記載されており、このおびただしい線状擦過傷は裸の死体が死後地面を引きずられたために生じたものと考えられる、五十嵐鑑定人は当審(第五三回)において、「これはうつ向けの死体を引きずった時にごくつきやすい傷である。」、「ぎぎぎぎのある棒でこすったり何かしてこういうような傷はできません。」、「生活反応がはっきりしないということは先ほど申した死戦期の損傷かどうかは、はっきりしませんけれども、普通は死後損傷と見るのが普通でございます。」、「これだけの擦過傷というものは相手に抵抗力のある時にはなかなかでき得るものではごぎいません。」と述べている、そして五・四員大野喜平作成の実況見分調書中にも、「服の長さは〇・五七米、袖の長さは○・五〇米で地面を引きずった形跡が認められる。」と記載されており、死体が地面を引きずられたことを衣服に残った痕跡から判断している。死体は何らかの理由で引きずられたことは明らかである、ところが、被告人は、はっきりと死体を引きずったことを否定しているのである。すなわち、被告人は七・八検原調書中で、「Yちゃんを穴倉の所まで運んだり穴倉から埋めた所まで運んだ際は両手で首付近と足を抱える様にして運びました。引きずって行った様なことはありません。」と述べているのである、以上のとおり自白によっては死体に存在するおびただしい擦過傷の成因を説明することはできない、ここでもまた自白が客観的事実に合致しないことを明瞭に露呈している、もっとも、これらの擦過傷は死体を芋穴へ吊り下げる際又は引き上げる際に芋穴の璧に死体が触れて生じたのではないかと考えることができるかもしれない、少なくとも、原検察官がそのように考えたことは確かである、原検察官は当審(第一七回)において、「死体を引きずったという自白はありませんが、芋穴で死体を上げ下げしたときに腹のところに擦過傷ができるという風に思ったのです。」と証言しており、これに見合うように被告人の六・二五員青木調書中の「この時Yさんは穴倉の璧にさわって上って来たと思います。」との供述があり、七・八検原調書中でも「Yちゃんの体は穴の壁に擦れながら引き上げられたわけです。」との供述がある、しかし、そもそも死体を芋穴に逆さ吊りしたという前提事実に疑問があるし、死体が芋穴に逆さ吊りされて、芋穴の壁に触れて吊り下ろされ、また引き上げられたとしても、果たして死体にみられるような整然とした擦過傷が生ずるかどうかは極めて疑わしく、殊に芋穴の壁は柔らかい土であるからこのようにはっきりした擦過傷が付くものとは考えられないし、あるいはコンクリート製の蓋にこすれたりすればもっと深く、生々しい傷跡が生ずるに違いないのであるから、原検察官の判断は単なる想像にしかすぎないというのである。
 たしかに、所論指摘の各証拠によれば、死体に存在する多くの擦過傷、なかんずく死体左側腹部、左右大腿部に存在する擦過傷は死体が何らかの理由で引きずられたことによるものと考えられる。そして、被告人が員及び検調書中で死体を引きずったことはないといっていること(ただ芋穴に隠しておいた死体を引き上げるとき死体は穴の璧に擦れながら上がってきたといっている。)は所論指摘のとおりである。
 しかしながら、後述するように被害者が着ていたスカートが破れたのは被告人がいうように死体を芋穴から引きとげる際にその足部が穴の外へ出たとき身体を引き出そうとしてスカートをつかんだときに破れたものと認めて差支えなく、被告人が死体を芋穴に出し入れする際に死体が芋穴の側壁(前掲大野実況見分調書の添付写真を見ると、芋穴の口はコンクリートで縁どられて補強されておることが認められ、その上に二枚のコンクリートの蓋を乗せるように出来ている。)に触れて腹部や左右大腿部に本屍のような擦過傷ができる可能性はあると考えられる。のみならず、右の各線状擦過傷は被告人が被害者を殺害後農道へ埋没するまでの間の、いずれかの時点に、いずれかの場所で死体を引きずったために生じたものと推認することもできるのである。
 要するに、被告人が捜査段階において、死体に存する多くの擦過傷やその成因について供述していないことを理由に、被告人の自白全体の信用性がないかのようにいう論旨は理由がない。

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