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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)
その一二 死体について。
(六)姦淫の態様について。
所論は、上田鑑定を援用し、死体外陰部に存在する損傷は被告人が自白調書で述べているように、「さぐり」又は「まさぐる」程度のことでこのような傷が生ずるかどうか疑わしく、また被告人が述べるような方法で姦淫が可能かどうかも疑問である、殊に、被害者は後ろ手に手拭で縛られていたとすれば「右掌側前腕尺骨側縁中央部の指頭大皮下出血」(五十嵐鑑定)一個にとどまらず手にその他の傷を負うことは当然予想し得るところである、更に、処女膜の時計文字板位一〇時から二時までの間は裂隙状(裂けているという意味)でしかも創縁が蒼白で死後にできた損傷であると思われ生前のものでないことが確かであること、外陰部の損傷は生前、姦淫時にできたものと考えるのが妥当ではあろうが、その位置関係や死体がひきずられたなどの事情があるために、他の時にできたかもしれず、必ずしも姦淫時に生じたものとは断定できないこと、小陰唇の損傷だけでは暴力的性交の証拠とすることは比較的可能性が乏しいこと、すなわち処女膜の六時位に皮下出血を伴う小指爪面大挫傷(五十嵐鑑定にいう1)も爪痕とは考えにくく、大陰唇、小陰唇などの各損傷(五十嵐鑑定にいう叫粍払H1 H2 H3 G1 G2 G3)も必ずしも暴力的性交でなくとも性交に慣れない者による性交の場合にできる可能性があることなどを考え合わせると、被害者の陰部に残る痕跡は必ずしも暴力的性交によるものとはいい切れない、のみならず被害者が姦淫されたのは死亡直前であるかどうかは断定できないというのである。
たしかに、上田鑑定は、外陰部に存する損傷について所論指摘のような意見を述べている。しかし、五十山風鑑定及び証人五十嵐勝爾の当審(第五四回)供述によれば、同人も左右大陰唇外側面のらG2G3については「典型的爪痕の形状を示さないが、加害者の指爪による損傷の疑いが強く存在す。」と述べているだけで、その成因についてしかく断定的な意見を述べているわけではない。そして、被告人のいうように、被害者の両手を後ろ手に縛って押し倒したうえ姦淫した場合でも、被害者の前腕部に皮下出血一個の傷害を負わせるにとどまることも決してあり得ないことではない。また、被害者が処女であったかどうかについても、五十嵐証人が当審公判廷で供述しているように現段階においてはこれを確認することはできない。更に、上田鑑定は新たに処女膜に生前のものと思われる裂隙状の揖傷があると指摘しているが、その他の外陰部に存するH1 H2 H3 I G1 G2 G3の表皮剥脱、擦過傷、皮下出血などの各損傷については両鑑定とも生前に(特に、上田鑑定もG1 G2 G3 Iについては性交時のものではないかといっている。)生じたものとみている。なお、両鑑定とも膣内容から精虫多数が検出されたことを前提として結論を導いている。以上検討してきたところによれば、両鑑定の外陰部の損傷についての所見にはさほどの相違があるとは考えられない。要は、これらの外陰部以外の被害者の死体の状況(殊に損傷の存在、その成因など)について医学的にどうみるかということであり、言い換えれば死体の状況を総合的に判断して医学的に犯行の態様をどの程度推認することができるかということであり、その点で両鑑定の結論が分かれているとみてよい。つまり、五十嵐鑑定は「1.本屍の外陰部には生存中成傷の新鮮創を存すること。2.膣内容より形態完全なる精虫多数を検出し得たこと。3.本屍には生前の外傷を存すること。」のほか、犯行の態様には三つの型があって、普通一番多いと思われるのは抵抗を排除しつつ性行為を行うために扼殺に至る型であり、次は、あらかじめ殺しておいてから屍姦に類した行為をする場合、更に姦淫をした後改めて扼殺を行う場合であり、本件は第一の型であろうという同鑑定人の経験的知識に基づく推定を根拠として、「本屍の死亡直前に暴力的性交が遂行されたものと鑑定する。」と結論し、他方、上田鑑定は、H1 H2 H3 G1 G2 G3は性交に慣れない者の性交時に生ずる可能性もあるから死亡直前に暴力的性交を受けたとは断定できないと結論するのである。
しかしながら、前記のとおり被害者の外陰部に生前の揖傷があり、膣内容から形態完全な多数の精虫が検出されたことのほか、死体には多数の生前の損傷があること、死因が扼頸による窒息死であること、被害者の死体がタオルで目隠しされ、かつ手拭で後ろ手に縛られまたズロースも下げられた状態で発見されたことなどを総合して考察すると、被害者は死亡の直前強いて姦淫されたものと推認するに十分である。
この点につき、被告人は自ら員及び検調書中で、身分証明書そう入の手帳一冊を強取した際、にわかに劣情を催し、後ろ手に縛った手拭を解いて同女を松の木から外した後、再び右手拭で後ろ手に縛り直し、次いで数米離れた四本の杉の中の北端にある直径約四十糎の杉の立木の根元付近まで歩かせ、同所であお向けに転倒させて押さえ付け、ズロースを引き下げて同女の上に乗りかかり姦淫しょうとしたところ、同女が救いを求めて大声を出したため、右手親指と人差し指の間で同女の喉頭部を押さえ付けたが、なおも大声で騒ぎ立てようとしたので、右手に一層力を込めて同女の喉頭部を強圧しながら姦淫を遂げた、姦淫を遂げた後に被害者が死亡したことに気付いた旨の供述をしているのである。
してみれば、被告人の自白と死体の状況との間に矛盾するところはないと認められる。それゆえ、論旨は理由がない。
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