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(死体及びこれと前後して発見された証拠物によって推認される犯行の態様について。)

その一四 自転車、その荷掛紐及び教科書類について。

 関係証拠によれば、五月一日夜被害者Yの身分証明書入りの脅迫状がN・E方に届けられ、N方ではYが学校からの帰途何者かによって誘拐されたのではないかと思い、警察に届けて助けを求めようとして父Eと兄Kとが一緒に小型貨物自動車で出捌けようとした際に、納屋の軒下にYが当日学校へ乗って行った婦人用自転車が置いてあるのを発見したこと、五目三日犯人逮捕に失敗した捜査当局が被害者の通学路を含め主として付近一帯の山林を捜索し、手掛かりとなる遺留品、証拠物の発見に努めた結果、同日午後二時二五分ころ狭山市入間川井戸窪一二九八番地の雑木林から被害者が使用していた自転車の荷掛紐を発見したこと、その後五月四日に死体が発見され、五月一一日にはスコップが発見された後、五月二五日になって同市入間川字中窪一五八一番地の桑佃で作業中のM・Saが畑の側溝で被害者の教科書、ノート類一三点を発見して警察へ届け出たことは、疑いのない事実である。
 これらの自転車、その荷掛紐及び教科書類の発見経過から犯行の態様について推測できることは、犯人が五目一日N・E方へ脅迫状を届けに行く際に、この自転車を利用したであろうこと、その途中で被害者の所持品の教科書類や荷掛紐を捨てたり隠したりしたこと、いまだ発見できないが、鞄も教科書類や荷掛紐を捨てたり隠したりした地点の付近に隠されているのではないかということであって、犯人の行動経路はもちろん不明であるが、犯人がN家へ自転車を届けたのは、脅迫状を届けに行く際単にそれを利用したばかりでなく、脅迫状在中の封筒に身分証明書を入れたのと同様、家人に被害者の身に危険が切迫していることを告知する意味があったと考えてよいであろう。また、犯人にしてみれば、自転車から足がつくことを恐れてこれを被害者宅に差し置くのが得策であると考えたこともあるであろう。
 しかるところ、被告人の自供によって、五月一目の犯行の手順や経路が明らかになり、これらの証拠物の処置の詳細も判明し、これらの証拠物は、他の証拠物と相まって被告人の自白の真実性を担保していることに相違はない。
 ところで所論は、自転車や教科書類から指紋が検出されなかったこと自体に疑惑がある、すなわち、捜査当局が故意に指紋をふき消したのではないかとか、指紋検出方法に誤りがあったのではないかなどというのである(自転車、荷掛紐、教科書類の発見経過については他に特段の主張はない。)。
 自転車の指紋検出に関する報告書は提出されなかったが、当審において提出された教科書(五・三〇警察主事小沼達之助ほか三名作戌の「指紋検出結果報告書」)、封筒、脅迫状、身分証明書(五・一三警察技師斎藤義見ほか二名作成の「指紋検出および対照結果について」)、万年筆(六・二六警察主事新井実作成の「指紋印象の有無検査結果について」)、腕時計(七二一警察技師小沼達之助作成の「指紋印象の有無検査結果について」)などについての指紋検査に関する各報告書(これらの証拠物については、いずれも被告人の指紋を検出することができなかった。)をみても、捜査当局の作為が介在する疑いは存しない。そして、捜査官らの当寄託言によれば、自転車についても指紋検査が行われたが、指紋を検出することができなかったことが窺われる。捜査当局の指紋検査について、作為性が介在するかのごとくいう所論は何ら恨挺のない憶測に過ぎない。

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