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二 事実誤認の主張2について。

(一)(未必的な殺意)

 所論は、被告人は、被害者を強姦するに際し、未必的にしろ殺意はなかったのであるから、原判決が「同女が救いを求めて大声を出したため、右手親指と人差し指の間で同女の喉頭部を押えつけたが、なおも大声で騒ぎたてようとしたので、遂に同女を死に致すかも知れないことを認識しつつあえて右手に一層力をこめて同女の喉頭部を強圧しながら強いて姦淫を遂げ、よって同女を窒息させて殺害したすえ」云々−、認定し、被告人を強盗殺人・強盗強姦に問擬したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認であるというに帰するので、この点を考えてみるに、被告人は当審になってから原審までの自白を翻して全面的に無実を主張するに至ったので、当審における長期間かつ詳細な事実の取調べにおいても、この点に触れて新たに付加された判断資料は存在せず、専ら被告人の原審公判及び捜査投階における各供述、並びに死体が発掘された当時の状態とか鑑定の結果等によって、原判決の認定の当否を判断するほかはない。ところが、被告人の原審における公判供述中この点に触れた部分は、「問、縛りつけて時計や財布を取った後に強姦したのか。答、はい。問、その際被害者を殺すようなことになったのか。答、はい。問、この間の事情は警察や検察庁で述べたとおりか。答、はい。」という程度にとどまり、その詳細は挙げてこれを捜査段階における被告人の供述に依存する形になっている。しかるところ、この点に関する被告人の捜査段階における供述はまちまちで捕そくし難い内容のものであるから、原審としては、被告人がいわゆる冒頭認否以降、終始強盗殺人・強盗強姦等の事実を認めて争わなかったにしろ、この点を詳細に質問して犯行当時の具体的状況を明らかにしておく必要があったのであり、今となっては仕方のないことであるが遺憾なことである。
 それはそれとして、一件記録によれば、被告人が、原判決の冒頭及び(罪となるべき事実)第一に認定判示されたのとほぼ同様の経緯から、昭和三八年五月一日午後三時五〇分ころ、狭山市入間川一七五〇番地先の加佐志街道のエックス型十字路において、自転車に乗って通りかかった下校途上の埼玉県立川越高等学校入間川分校別科一年生N・Y(当時一六歳)に出会うや、とっさに同女を山中に連れ込み人質にして、家人から身の代金名義のもとに金員を喝取しょうと決意し、同女の乗っていた自転車の荷台を押さえて下車させたうえ、原判示の雑木林に連行したこと、原判示の経緯で同女を付近の松の立木に縛り付け、そのままにしておいて脅迫状を同女の父N・E方に届けて同人から身の代金を喝取し、かつはY所持の金品などをも強奪しようと企図して、同女に対し「騒ぐと殺すぞ」と申し向けながら、立たせたまま付近の直径約一〇糎の松の立木を背負わせるようにして、所携の手拭(昭和四一年押第一八七号の一一は右手拭を三つに分断したもの)で同女をその木立に後ろ手に縛り付け、所携のタオル(同押号の一〇)で日陰しを施し、その反抗を抑圧したうえ、まず同女が身に着けていた同女所有の腕時計一個(同押号の六一)及び身分証明書(同押号の二)そう入の手帳一冊を強取した際、にわかに劣情を催し、後ろ手に縛った手拭を解いて同女を松の木から外した後、再び右手拭で後ろ手に縛り直したことは、被告人の自白中素直に理解することができる部分であり、殊に、一たん松の木を背負わせるようにして後ろ手に縛り付け、目隠しを施した後腕時計等を強取した際、にわかに劣情を催したので同女を強いて姦淫するべく手拭を解いて松の木から外した後再び右手拭で後ろ手に縛り直した経緯は、発掘された死体の状態そのものから推測することは困難で、どうしても被告人が供述しなければ捜査官において誘導のしようもない事実であると考えられる。次いで数米離れた四本の杉の中の北端にある直径四〇糎位の立木の根元付近まで歩かせ、同所で同女をあお向けに転倒させて押さえ付け、ズロースを引き下げて同女の上に乗りかかり姦淫しょうとしたところ、同女が救いを求めて大声を出したという事実も、当然の成り行きであるとして首肯することができる。更に、声を立てさせまいとしてとっさに右手親指と人差し指との間で同女の喉頭部を押さえ付けたが、なおも大声で騒ぎ立てようとしたので、被告人としては更に一層の力をこめて喉頭部を強圧したという事実もまた首肯することができる。
 このように、被害者の両手を後ろ手に縛り上げ、日隠しを施して無抵抗の状態にしておきながら、同女をあお向けに転倒させて強いて姦淫しようとしたが大声で騒がれたので前記のように被害者の喉頭部を強圧し続け、姦淫を終わるころようやく手を緩めたところ、被害者はもはや動かなくなっていたという一連の行動は、特段の事情のない限り少なくとも未必の殺意を推認させるといってよい。この点に関する被告人の捜査段階での供述はまちまちで、供述調害の数からいうと、死んでしまうかもしれないとまでは思わなかったという方が多いけれども、検調書の一部には、死んでしまうかもしれないと思ったという供述もあって、供述だけではどちらとも決し難い。
 そこで、被告人の「本件」犯行に至る動機・経緯にさかのぼって考えると、事の起こりは、被告人は当時の生活態度などが原因で兄六造と仲たがいするなど家庭内の折り合いが悪くなり、兄の鳶職手伝いにもとかく身が入らず、東京都内へ出て働こうと思っていた矢先、たまたま起こったいわゆる吉展ちゃん事件にヒントを得て、自分も幼児を誘拐してその親から身の代金を喝取しょうと考えるに至ったのであるが、当時は吉展ちゃんの行方は分からず、生死の程も不明であって、被告人としても幼児を殺すことまでは考えていなかったとみるのが相当であること、被告人は捜査官に対して誘拐するのに適当な幼児が見付かっていたならばYさんを殺さずにすんだのにと述懐している部分があること、被告人の員及び検調書の多くは殺すつもりはなかったと繰り返し供述していること、Yさんが死んでしまったのをみて大変なことになったと驚き、少し離れた桧の下で思案中にも、Yさんが倒れている場所まで行って見たが、やはり死んでしまっていたと供述している箇所があること、このことと、鑑定の結果によっても、木綿細引紐で首が絞められたのは死後のことであって絞頸による窒息死ではないことなどを総合すると、一応は殺意を否定する特段の事情があると見ることもできないわけではない。言い換えると、死後の絞頸は、被告人が検察官の質問に対して極力否定しているにもかかわらず、被告人としては、脅迫状を届けて帰るまでの間に被害者が万一生き返るかもしれないことを慮って、死を確実にするためにやったと認めぎるを得ないわけであるが(被告人がしらをきったのは死後とはいえ紐で首を絞めるのは悪い情状であるとみられるのを恐れてのことと認めぎるを得ない。)、そのことがかえって姦淫時に喉頭部を強圧する際には殺意がなかったことの証左であるとも一応は考えられる。しかしながら、なおよく考究するに、当初、幼児を誘指して身の代金を喝取するとすれば木綿紳引紐でも使って幼児をしかるべき場所に縛り付けておき、その間に脅迫状を持参することもできないわけではないが(七・三検原調書で、被告人は、子供を山学校の便所に連れ込んで脅かしの手紙を子供の家に届けることを考えていたと述べている。)、被告人が描いていたと思われるE・S方の幼椎園児その他適当な幼児が見当たらず、誘拐の対象を急に原判示のエックス型十字路で出合ったN・Yに転換し、原判示の経緯で同女を原判示の雑木林に連れ込んだものの、そこに被告人の誤算があったと考えられる。言い換えると、Yは当日一六歳の誕生日を迎えた少女であるから、原判示のように同女を立木に後ろ手に縛り付け、タオルで目障しを施して反抗を抑圧したうえ身に着けていた腕時計や身分証明書などを強取するまでの運びはともかく、仮に「俺は近くで見張っているから、騒いだり声を出したりするな。」といって、付近で見張っているように見せかけ、目隠しをした(七・一検原調書第二回)ところで、N・E方に脅迫状を届けて立ち帰るまでの間、同女がそのままおとなしくその場に残留しているとは到底考えられない。更にその際劣情を催し、原判示のように同女を強いて姦淫しようとして大声を出して騒がれたにもかかわらず、その抵抗を排して強いて同女を姦淫するべくその喉頭部を強圧するまでに立ち至り、既に被害者に顔を見られていることでもあるから、もはやそのままですますことはできない事態にまで発展した以上、死の結果の発生を認識し、かつ、認容しつつあえて同女の喉頭部を強圧し続けたものと認めないわけにはいかない。すなわち、少なくとも未必的な殺意を有していたといわぎるを得ない。要するに、前掲の諸事情はいまだもって、原判決認定の未必の殺意を否定する持段の事情とまでは認められない。
 それゆえ、原判決には事実の誤認は存しないから、この点の論旨は理由がない。

(二)(窃盗罪について)

 次に所論は、原判示第四の(四)のT・R所有の作業衣一着を窃取したとの認定を争うのであるが、関係証拠によれば、被告人はT・Rから明示黙示の承諾もなく、被害者の意思に反して同人の管理する自動車の中に置いてあった同人所有の作業衣一着を勝手に着用して持ち去ったものであるから、犯行の当時不法領得の意思を有していたことを優に肯認することができる。そして、このような無断持ち去り行為は実質的違法性がないなどとはいえないから、窃盗罪を構成しないとする論旨も理由がない。
 なお、原判決の冒頭並びに罪となるべき事実第一ないし第三の事実中には、当審における事実の取調ベの結果を参酌すると、細部において事実を誤認したと認められる部分が存することは先に指摘したとおりであるけれども、これら認定の誤りはいまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められない。

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