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(二) 山下意見書
山下意見書は、主として筆跡計測学の立場から、本件脅迫状と対照資料である警察署長宛上申書とに共通に存在する文字、偏、旁につき、筆順、字画構成の特徴の比較検査を実施し、これを基に統計的に算出した異同比率(対照特徴総数中に見られる同一特徴の百分比)を鑑別基準にして、両文書の筆跡それぞれについて異同比率を算出したところ、鑑別基準上、両文書は筆跡異同不明領域に属することが判明したから、これを同一筆跡と認めることはできないというのである。
しかしながら、筆跡の特徴点を捉えるについて判定者の主観が入ることは避けがたいであろうから、これが、異同比率の算出にも影響することは察するに難くなく、しかも、その異同の鑑別に用いた、請求人自書の対照資料は、警察署長宛上申書一通のみであるところ、右は通常とは異なる心理的、物理的状況の下で作成されたもので、筆者の自然な書字行動が反映されているか疑わしい面があること。(この点は、神戸鑑定書の項で詳しく検討するとおりである。)、また、本件脅迫状と右上申書とに共通する漢字であつて、異同比率算出の基礎にし得たのは、「月」「日」「時」「五」の四個に過ぎず、量的に問題があることは、鑑定人が自認しているのである。
このように見てくると、右意見書の価値は、限定されたものといわざるを得ないのであつて、三鑑定の判断を揺るがすには至らない。
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