部落解放同盟東京都連合会

狭山事件第2次再審棄却決定-INDEXに戻る 

第九 死体の運搬方法について

 所論は、要するに、新証拠として、(1)渡辺謙、中塘二三生作成の昭和六三年五月九日付ダミー運搬実験に基づく意見書(ビデオテープ添付。渡辺・中塘意見書)、(2)渡辺謙、中塘二三生作成の平成五年三月一日付ダミー運搬実験再意見書(ビデオテープ添付。再意見書)、(3)証人渡辺謙、(4)同中塘二三生等を援用して、請求人の自白どおりの方法で、被害者の死体を殺害現場から芋穴まで約二〇〇メートルの距離を途中休むことなく運搬することは、科学的に考察しても不可能であり、請求人の自白は虚偽であることが明らかで、右自白を信用した確定判決の事実認定には合理的な疑いがある、というのである。
 渡辺・中塘意見書は、被害者の死体に見立てた重量五四・九キロ(着衣付きで五六・一キロ)の人体模型を用いて、男子四名を被検者とし、身体の前方で両腕の肘を屈曲させて人体模型を抱える姿勢で距離二〇〇メートルを目標とする運搬実験を行ったところ、いずれも右目標値に達しなかったことなどから、請求人の自白供述のように、身体の前方で肘を屈曲させて死体を抱える姿勢で運搬することには無理があり、事件当日の天候や地形をも勘案すると、請求人が自白どおりに被害者の死体を殺害現場から芋穴まで二〇〇メートル余も運搬したとは考えられないというものであり、再意見書は、再度検討した結果、渡辺・中塘意見書の運搬実験は、請求人の自白に沿った妥当なものであり、その結論は正しいというのである。これを要するに、渡辺・中塘意見書及び再意見書は、請求人の自白に述べられた死体運搬の態様を、「殺害現場から芋穴まで約二〇〇メートルの間、途中休むことなく、身体前方で肘を屈曲して両腕の上に載せ、前へささげるようにして運んだ」としたうえで、日本人男子の平均ないしそれ以上の体力を持つ複数の被験者に、「身体前方で肘を屈曲して両腕の上に載せ、前へささげるようにして、途中休むことなく運ぶ」という方法で、被害者に見立てた人体模型を実際に二〇〇メートル運搬できるか実験を行ったところ、被験者全員これを達成できなかったというのである。
 そこで検討する。

(一)請求人の供述調書の中から、死体運搬に関係する供述記載を摘記すると、およそ以下のとおりである。
(1)「私は死んだY(被害者)さんを頭を私の右側にして仰向けのまま私の両腕の上へのせ、前へささげるようにして、そこから四〇米から五〇米位はなれた畑の中のあなぐらのそばまで運びました、そこは私があなを掘ってYちゃんを埋めたすぐそばです」、「私は仕事をするのにセメント二袋二十六貫を担いで運ぶことがあります、Yちゃんはこのセメント一袋より軽い感じがしました」(司法警察員に対する昭和三八年六月二五日付供述調書)
(2)「死んでいるYちゃんの首と足のところに私の両腕を入れて抱え上げて藷穴の近くに運んでおきました」(検察官に対する同日付供述調書。第一審記録二一八八丁以下のもの)
(3)「Yちゃんをこの前話したようにあなぐらのそばへ運んでおきました、その時私はYちゃんの両足を開かないようにビニールの風呂敷でしばったように思います」(司法警察員に対する同月二九日付供述調書)
(4)「死んでいるYちゃんを両手で首のところと足の方に下から手を入れ、抱えて藷穴の所迄運びました」(検察官に対する同年七月一日付供述調書。第一審記録二二四〇丁以下のもの)
(5)「杉の木の根元から穴ぐらのところまで運ぶ時にはYちゃんの身体を仰向けにして頭が私の右手の方に、足の方を私の左手で支えるようにして前へ提げるように抱いて運んだのですが……」(司法警察員に対する同月三日付供述調書)
(6)「私は普通の人よりかなり力が強いと思います。腕相撲で友達に負けた事はないし、二十六貫位のセメント袋をかつぐ事もできます。現に事件の後の五月中ば頃、自分の家で一つ十三貫のセメント袋二つを地面から二つ一緒に両手で持ち上げて、右肩にかついで庭から家の前の車に積んだこともあります。前に働いていたN方でも同じ重さのセメント袋二つをよくかつぎました。」(検察官に対する同日付供述調書。第一審記録二三〇九丁以下のもの)
(7)「Yちゃんを穴倉の所迄運んだり穴倉から埋めた所迄運んだ際は両手で首附近と足を抱える様にして運びました、引きずって行った様な事はありません」(検察官に対する同月八日付供述調書。第一審記録二三六六丁以下のもの)

(二) これらの供述調書の記載を通観すると、請求人は、捜査官に対して、自分は力が強く、仕事でもセメント袋二個(二六貫=約九八キロ弱)を肩に担いで運ぶことがあり、本件では、死体の頭を右側にして、自分の両腕を死体の首と足の下に入れ、抱えるようにして芋穴まで運んだ旨述べたという記載があり、加えて、前掲(1)と(5)の司法警察員に対する供述調書には、それぞれ「前へささげるようにして」、「前へ提げる(原文のまま)ように抱いて」運んだ旨の、また、(7)の検察官に対する供述調書には、「引きずって行った様な事は(ない)」旨の各供述記載があるけれども、二〇〇メートル余運ぶ間に、持ち替えて担いだり、小休止を取ったか否かについては記載がない。しかし、その旨の供述記載がないことから、直ちに、運搬の途中で持ち替えや小休止をまったくしなかった趣旨に解するのは、必ずしも当を得たものとはいえないというべきである。
 両意見書の実験結果は、その前提において問題があり、本件死体の運搬に関する請求人の自白の真実性を疑わせるものとは言い難い。
 したがって、これら所論援用の証拠を併せて、確定判決審の関係証拠と総合検討しても、確定判決の事実認定に合理的な疑問を抱かせるものとはいえない。

このページのtopに戻る

 ◆狭山事件第2次再審棄却決定-INDEXに戻る

部落解放同盟東京都連合会

e-mail : mg5s-hsgw@asahi-net.or.jp 

Site Meter