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(八) 戸谷意見書

 戸谷意見書は、本件脅迫状と警察署長宛上申書、捜査官に対する各供述調書添付図面の請求人自書の説明書き、N宛手紙、脅迫状写、関宛手紙類等を対象として、本件脅迫状の筆者と請求人の平仮名・片仮名・漢字の能力、句読点を使いこなす能力、文章の構成力、指示語・接続語を使いこなす能力、文章思考能力と内容構成能力、客観的描写・叙述の能力などの作文能力を、小学校の学習指導要領と国立国語研究所の研究に沿って分析、検討した結果、本件脅迫状作成者の作文能力は、小学校高学年あるいは小学校卒業以上のかなり高度なものであるのに対し、請求人のそれは、小学校低学年以下であり、両者の間には厳然たる格差が存在し、たとえ吉展ちゃん事件の脅迫電話や雑誌「りぼん」を参考にしたとしても、請求人が本件脅迫状を書くことはできなかったと判定する。
 しかし、請求人の書字・表記等の習得については、神戸鑑定書、江嶋ほか意見書の各項において検討・指摘するとおりであって、その国語力は、教育課程に沿って段階的に順序よく習得してきたものではなく、独習者にあり勝ちな偏りのあるものではあつても、一概に、本件当時の漢字の書字能力を小学校低学年以下と判定してよいとは思われない。戸谷意見書は、警察署長宛上申書、N宛手紙、脅迫状写、捜査官に対する供述調書添付の見取り図説明文などをもって、請求人の当時の書字・表記能力の実際を示すものと認め、その後、請求人が昭和三八年九月六日付以降の関宛手紙類を書いたのは、勾留中の自学自習による「驚くべき発展」であると評価するが(同意見書八九頁等)、昭和三八年春から六、七月ころの請求人の普段の書字・表記の能力が警察署長宛上申書(五月二一日自書)、N宛手紙(六月二七日付)、脅迫状写(七月二日付)に見るとおりのレベルにあつたとすると、漢字や手紙文の書式、言い回しなどについて、浦和刑務所拘置区の職員の教示を受けたことを考慮しても、僅か一、二か月間の学習で、書字、配字、筆勢、運筆などの点で格段に優れている昭和三八年八月二〇日付の接見等禁止解除請求書、関宛の同年九月六日付手紙などが書ける程に「驚くべき発展」を遂げ得たとは考え難い。昭和三三年から三五年にかけて作成され、それぞれ手書き部分は請求人が自書したと認められる前記早退届氈A同、通勤証明願に見られる書字の形態、配字、筆圧、筆勢なども併せ検討すると、戸谷意見書の指摘する「格段の差」(同意見書八九頁)は、学習の成果というよりも、むしろ請求人の置かれた環境、心理状態などの違いによるところが大であると考えられる。前記関宛の九月六日付手紙は、請求人が、昭和三八年七月九日までに取調べと起訴がすべて終わり、浦和刑務所の拘置区に勾留場所を移されて、精神的にも落ち着いた時期に、以前から心安く、警察署に勾留中に世話になつた関源三巡査部長に、近況報告と願いごとのために自発的に書かれたもので、運筆、筆勢が暢達であるのに対し、警察署長宛上申書、N宛手紙、脅迫状写、供述調書添付図面の説明書きなどは、いずれも請求人が、捜査官から求められて、その面前で被疑者として作成したものであつて、配字の乱れ、運筆、筆勢の渋滞も、書き手の強く緊張した心理状況の現れと見ることができる。筆跡対照資料を検討するに当たっては、神戸鑑定書の項において論じるとおり、このような文書作成の背景事情を看過することはできない。
 さらに、片仮名の「ツ」の字の使用に関し、促音の「っ」の部分に片仮名の「ツ」を使うのが請求人の用字の一つの特徴で、この表記の誤りは、仮名表記能力の低さを示すとしながら、他方では、本件脅迫状に見られる「ツ」の使用は、本件当時出回っていた振り仮名付きの漫画本、大衆小説などに多く見られた用法によったものではないかと推測し、これを両者に共通する特徴点とは見ない右意見書の見解には納得し難いものがある。このように、右意見書の判定には疑問点が多く、三鑑定の判定に影響を及ぼすものとは言い難い。

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