部落解放同盟東京都連合会

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第一七 腕時計について

 所論は、新証拠として、(1)司法警察員遠藤三ほか作成の昭和三八年五月八日付捜査報告書(遠藤ほか報告書)、(2)O・Mの同年七月二日付司法警察員に対する供述調書(O員面)、(3)前記多田論文、(4)昭和三八年五月二八日付日本経済新聞朝刊記事等を挙げ、これらの証拠を確定判決審の証拠と併せ見ると、本件当時Y(被害者)が所持していた被害品の腕時計であるとして押収されているシチズン製ペット六型金色側女持ち腕時計一個(浦和地裁前同押号の六一、本件腕時計)が発見されたについては、あたかも、これが請求人の自白に基づいて発見されたかのように見せかける捜査当局の作為が介在する疑いがあり、また、被害者の所持していた腕時計はシチズン製コニー六型金色側女持ちであるのに対し、本件腕時計は、同じシチズン製の金色側女持ちでも、ペット六型であるから、被害品とはまったく別物であることが明らかであり、したがって、被害者から本件腕時計を奪い取り、一旦自宅に隠匿した後に投棄した旨の自白が虚偽であったことも確認されたから、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じることが明らかになったと主張する。
 検討するに、所論援用の証拠を確定判決審の関係証拠に併せ見ると、
(1)昭和三八年五月四日に被害者Yの死体が発見されたが、その携帯していたはずの腕時計(兄K)が、昭和三七年三月下旬、都内台東区御徒町所往のK社で購入して、Yに与えたシチズン製金色側女持ち)が見当たらないことから、犯人に奪われた疑いが持たれたため、被害品特定のため、捜査官が購入先などを捜査した結果、被害者の腕時計は形状等の特徴からシチズン製「コニー」六型金色側女持ち腕時計であると思料されたので、参考のため右と同種の腕時計一個を業者から借受けて持ち帰り、公開捜査のための品触れにも、被害品としてシチズンコニー六型金色側女持腕時計を掲載し、しかも、品触れに当たり、この持ち帰った参考品の腕時計自体の側番号を被害品そのものの番号であるかのように取り違えて、その旨掲載するという、二重の過誤を犯してしまい、後になるまでその過誤に気付かなかったこと、
(2)そのうち、自白を始めた請求人が、昭和三八年六月二四日以降、青木警部に対して「時計は家に帰って風呂場の出入口の内側の敷居の上へかくして置いたけれども五月一一日頃の夜七時頃に狭山市田中あたりで捨ててしまいました。」、「五月一一日の夕方七時頃捨てたことに間違いありません。きっと朝の早い新聞か牛乳の配達が拾ったか、その夜そこを通りかかった人が拾っていると思うから新聞にでも出してみんなにそのことを知らせてみて下さい。」などと供述し、投棄場所の略図を描いて提出したので、六月二九日及び翌三〇日の二目間、捜査員が右略図に指示された場所付近の捜索をするとともに、付近住民等に対し拾得者がないかなど、聞込み捜査を行ったが、発見には至らなかったこと、
(3)ところが、被害品の腕時計投棄の話を聞知していたO・Mが、同年七月二日午前一一時ころ、自宅付近の道端を注意して見ていて、茶株の根元の落葉や古いビニール袋の陰に金色に光る腕時計(本件腕時計)を発見し、駐在所へ届け出たこと、
(4)この腕時計は、シチズン製「ペット」一七石角六型中三針金色側(側番号六六〇六、一〇八五四八一)であって、被害者に腕時計を買い与えた兄K、・右時計を被害者から時々借用して使用していた姉Tらの見分の結果、本件腕時計には、シチズン製金色側六型中三針裏蓋ステンレス、黒バックスキンのバンドという被害者の腕時計の形状、材質等の特徴に加え、バンドの複数の穴のうち、手首の細い姉(手首回り一六・五センチメートル)が使用するときのバンド穴と手首の太い被害者(手首回り一七・五センチメートル)の使用するときのバンド穴の二か所が連続して、普段止め金を通さない他の穴より穿れてやや大きくなっているという、被害者の時計バンド固有の特徴が認められ、姉T(被害者の姉)の確定判決審での証言によれば、これを試着してみたところ、バンドの大きくなっている穴二つのうちの、内側の穴(手首の細い方の穴)に止め金を通したとき、自分の腕に丁度具合よく合致したと述べていること、
が認められる。
 これらの事実から、前記Oにより発見された本件腕時計は、被害者の持ち物であることが、確認されたということができる。
 所論は、本件の特別重要品触れ(確定判決書記録一三二丁)として、写真入りで被害腕時計とその側番号が掲載されて広く配布されたものが、実は過誤により、参考品とその側番号を掲載していたなどということは、あり得ないことであり、そこに掲載されている側番号の腕時計が本当の被害品に違いないとして、捜査当局の作為を疑うのであるが、本件腕時計が被害者のものであることは、兄、姉の前記のような確認の結果により明らかであるばかりでなく、関係証拠によれば、押収にかかる本件腕時計とは別に、業者から借りて右品触れに写真入りで掲載された商品名コニーのシチズン製金色側女持ち腕時計そのものが現に存在するのである。本件腕時計は被害者の腕時計ではないとする所論の主張が当たらないことは、明らかであるといわなければならない。
 所論はさらに、本件腕時計の発見場所が、捜査官によって既に捜索済みの地域であることから考えて、事件発生から約二か月も経ってから、付近の住民によって道端の土の表面で視認、発見されたのは不自然であり、捜査官の作為の疑いがあるというのであるが、関係証拠から認められる本件腕時計の発見現場の状況に照らし、先に大掛かりな捜索が行われながら発見できなかったことは、必ずしも不自然な事態とは言い難い。
 畢竟、所論指摘の証拠は、確定判決審の関係証拠と併せ見ても、確定判決のこの点に関する事実認定を揺るがすものとは言えない。

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