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第一八 指紋について

 確定判決審で取調べた埼玉県警本部刑事部鑑識課員斎藤義見ほか二名作成の昭和三八年五月一三日付捜査報告書(確定判決審記録三九四六丁)によれば、同月二日に、本件脅迫状、その封筒並びに被害者の身分証明書につき、指紋の検査を行った結果、封筒から対照不可能な指紋三個が検出され、脅迫状から対照可能な指紋二個(一個は、狭山警察署の木村巡査の右示指、他は被害者の実兄K(被害者の兄)の右拇指)及び対照不可能な指紋二個が検出されたが、被害者の身分証明書からは検出されなかったこと、すなわち、脅迫状と封筒に対照不可能な指紋の付着があったが、請求人の指紋と同定できるものは検出されなかったことが認められる。
 所論は、新証拠として、(1)奥田豊作成の平成一〇年一〇月五日付意見書(奥田意見書)、(2)斎藤保作成の平成一一年四月一三日付鑑定書(斎藤鑑定書)、(3)証人奥田豊、(4)同斎藤保を援用して、本件の脅迫状作成時に、請求人が指紋付着を防ぐ処置をあらかじめ講じたことを窺わせる証拠はなく、また確定判決の認定によれば、昭和三八年五月一日の犯行は偶発的なものであったのであり、当時、指紋付着を予防していたとは考え難いから、請求人が本件脅迫状とその封筒並びに同封した身分証明書について、自白どおりの取り扱い方をしたのであれば、これらには当然に請求人の指紋が付着しているはずであるのに、同月二日に行った鑑識検査でも請求人の指紋が検出されなかったのは、請求人がこれらの物に手指で触れたことがないからであり、したがって、「脅迫状を作成し、善杖の身分証明書を同封してN方へ届けた」旨の請求人の自白は虚偽であることが明らかになり、確定判決の認定は動揺を来した、と主張するのである。
 検討するに、所論援用の斎藤鑑定書は、(1)請求人の自白によれば、手袋などで指紋付着を予防していたことはなく、(2)当時は若く、新陳代謝も盛んで、特異体質のために手指からの分泌物が検出試薬に反応しにくかったと見るべき合理的理由はない上に、自白から認められる脅迫状の作成態様、時間などから考えて、脅迫状の用紙や封筒に対する手指の押圧力は高く、また、手指の分泌物の付着も十分であったはずであり、(3)鑑識係官の指紋検出方法や、その技術に問題とすべき点はなかったことなどを理由に、本件脅迫状、その封筒、被害者の身分証明書から請求人の指紋が検出されなかったのは、すなわち、請求人がこれらに手指で触れなかったからであるとしか言いようがないと結論するのであり、奥田意見書もこれに沿う内容である。しかし、右鑑定書の結論には疑問がある。本件では、前記のとおり、鑑識係官により、本件脅迫状から、狭山警察署員の右示指の指紋、被害者の兄の右拇指の指紋各一個のほかに対照不可能な指紋二個が、その封筒からは、対照不可能な指紋三個がそれぞれ検出されているのであるが、一般に、手指で紙などに触れた事実があり、その分泌物の付着も十分であったはずでも、その触れた個所から、異同の対照が可能な程に鮮明な指紋が必ず検出されるとは限らないことは、確定判決が判示するとおりであり、裁判所に顕著な事実である。
 所論援用の証拠を、請求人が提出したその余の新証拠及び確定判決審の証拠と併せ検討しても、請求人のものと同定できる指紋がこれらの対象物から検出されなかったことが、即、請求人が本件脅迫状、封筒並びにY(被害者)の身分証明書などに手を触れた事実がないことを意味するとは言えず、この点に関する確定判決の事実認定を動揺させるものとは言い難い。
 なお、斎藤鑑定書は、鑑定資料として請求人の弁護人から提供された、指紋検出用の試薬で処理する以前の、本件脅迫状とその封筒の拡大白黒写真(これは、埼玉県警察本部刑事部鑑識課員作成の昭和三八年九月二七日付写真撮影報告書(第一審記録三七八丁)添付の写真を拡大複写したものと思われる。)には、軍手様の手袋の痕と思料される布目痕の一部が、脅迫状に一個所、封筒に計三個所存在するところ、これらは、被害者の家族や警察関係者によって付けられたとは考え難いことから、犯人が印象した可能性が極めて高いと判定し、所論は、これを援用して、犯人は軍手様の手袋を着用して、本件脅迫状とその封筒を取扱ったもので、請求人は犯人ではないと主張する。検討するに、斎藤鑑定書指摘の写真には、縞模様らしいものがその指摘の個所に薄ぼんやりと印象されているかに見えるが(所論にかんがみ現物を検しても、現在では判然としない。)、これを犯人の用いた軍手様の手袋の汚れが付着したものであるとする右鑑定書の指摘は、一つの推測に過ぎないというほかない。そして、所論援用の証拠を確定判決審の証拠に併せ検討しても、右推測を支持すると認めるべき証跡は見出せず、確定判決の事実認定に疑いを生じさせるには至らない。

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