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(九) 大野第二鑑定書

 大野第二鑑定書は、本件脅迫状と警察署長宛上申書及び脅迫状写などを国語学的観点から考察した結果、本件脅迫状は、小学校漢字学年別配当旧表による一年程度から六年程度の漢字のほか教育外漢字三字をも含む三四種、七五字の漢字が使われていること、故意の作為的用字と判断される特殊な万葉仮名的用字法が見出されること、句読点が使われていること、拗音や促音を小文字で表記しているこどなどから、書字・表記につき高度の知識を有する者が作成したものと認められるのに対し、他方、請求人については、小学生のころ欠席が多く、国語の成績も悪かったこと、請求人の書いた警察署長宛上申書や脅迫状写には、小学三年程度の漢字しか使われておらず、小学二年程度の漢字でも字画の多いものは使わず、平仮名で書かれていること、句読点の打ち方も誤っていること等から、請求人の書字・表記能力は小学一年程度と認められることなどが指摘され、これらの点を総合して、本件脅迫状は請求人が書いたものでないことが明らかである、というのである。
 検討するに、右鑑定書についても、神戸鑑定書、江嶋ほか意見書、戸谷意見書等の各項において検討・指摘するところが当てはまる。大野第二鑑定書が、本件脅迫状の書字・表記の状態から、その作成者の書字・表記能力が高度で、作為的な用字があると判定し、請求人自筆の警察署長宛上申書や脅迫状写にみられる書字・表記の状況や小学生当時の就学状況、学業成績、請求人の確定判決審における国語の知識、書字能力等に関する公判供述から、請求人の書字・表記能力が小学一年程度でしかないと判定することの妥当性に疑問がある。大野第二鑑定書は、確定判決審における請求人の供述に依拠して、取調べ官から本件脅迫状を見せられて、これをそのまま書写するようにいわれたにもかかわらず、請求人の書いた脅迫状写には、右脅迫状どおりの漢字を書写できずに仮名書きした個所がある旨指摘し、これは、請求人の当時の書字能力が低劣で、本件脅迫文を書くだけの能力がなかったためとしている。しかし、神戸鑑定書の項で見るとおり、原検事が、確定判決審で、脅迫状写は本件脅迫状の文章を書写させたものではないと述べて、請求人の言い分を否定する趣旨の証言をしていることなども考えると、脅迫状写の作成のいきさつについて請求人の述べるところが、そのとおりであるとも言い切れない。請求人は、小学生のころから、基礎的な国語知識、書字・表記の学校教育を満足に受ける機会には恵まれなかつたのであるが、書字習得に必要な知的能力においては、通常人になんら劣るところはなく、他家へ奉公し、工場勤めを経験するなど、社会経験もある程度は積んでいたのであるから、書字、表記等について、易から難へ段階的に順序立てた国語教育を受ける機会はなくとも、社会生活上の必要、関心に応じてその都度、ある程度の書字・表記を独習し、これを用いていたことは、確定判決審の関係証拠から窺われるのである。このような請求人について、「当時身につけていた書字技能は、かろうじて小学校一年生程度のものであつたことは確実である」(大野第二鑑定書一三頁)などと小児同然の評価を下すことが、正鵠を得たものとは考え難い。同一人の書字、表記であつても、その時々の書き手の心理状況、文書作成の心的物的環境等も影響して、配字、筆圧、運筆速度等が変化し、また、ある文書では漢字で表記したものを他では平仮名で表記し、ある文章では句読点を用い、他では省くなどの事象は稀なことではないのであつて、請求人が、捜査官の求めにより、重大な犯罪の被疑者として、高度の緊張を強いられる心理状況の下で自書した対照資料から、事件当時の請求人の国語知識、書字・表記能力を判定し、これを尺度に本件脅迫状は請求人が作成したものではないと断定することには、疑問があるといわざるを得ない。
 このような次第で、右鑑定書が三鑑定の判定に疑問を抱かせるものと言い難いことは、第一次再審請求審査手続において判断されたとおりであると認められる。

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