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(三) 木下第一意見書

 木下第一意見書は、確定判決の依拠する三鑑定を、筆跡鑑定の基本定理と近代統計学に対する無知、無理解に基づく謬見であり、鑑定人が類似点として取り上げた、本件脅迫状と各対比文書とが同筆であることの判定根拠を全く示していないと論難する。そして、右意見書では、(1)本件脅迫状と警察署長宛上申書の各共通文字につき、数値化した異同性の指標を設定し、「ツ」については、第二筆と第三筆の長さの比を指標として測定した結果、前者に存在する九個の「ツ」と後者に存在する三個の「ツ」は、過誤危険率〇・四%以下で同筆でないといえるので、右両文書が同筆でないことが、過誤危険率〇・四%以下で判定できる、(2)本件脅迫状及び封筒と右上申書の共通文字の「時」についても、前者の六個の「時」は、ほぼ正字であるのに対し、後者の三個の「時」は、いずれも明らかに誤字であるから、これらは同筆ではなく、右両文書もまた同筆ではないことが証明される、(3)本件脅迫状と内田裁判長宛書簡の共通文字の「に」について、第二筆と第三筆を結んでいる連続腺の第二筆となす角度を指標として測定した結果、前者の一三個の「に」と後者の四個の「に」とは過誤危険率〇・三%以下で同筆ではなく、右両文書は過誤危険率〇・三%以下で同筆でないと判定される、(4)本件脅迫状の「な」は、第一筆と第二筆を連綿させて一筆で書かれているが、この点は、請求人の手になる警察署長宛上申書、内田裁判長宛書簡、N・E(被害者の父)宛手紙の「な」には見られない特徴で、この相違からも本件脅迫状の「な」と各対照文書の「な」とは同筆でないことが証明され、結局、本件脅迫状とこれら対照文書とは同筆でないことが判定される、というのである。
 しかしながら、本件脅迫状と各対照文書に見られる書字の書き癖、形状、筆勢、運筆状態等を子細に対比検討した三鑑定の判定が合理的で首肯できることは、確定判決審、さらには第一次再審請求審査手続において、検討されたとおりであつて、三鑑定が単に共通文字の類似性のみから筆跡の同一性を判定したものでないことも、各鑑定書の記述内容に照らして明らかであり、三鑑定が判定根拠を示していないという論理は当たらない。そして、木下第二意見書が、本件脅迫状と警察署長宛上申書につき、関根・吉田鑑定書や長野鑑定書の指摘する類似点や共有する個性的特徴についての検討をまったく行わず、片仮名の「ツ」については、その第二筆と第三筆の長さの比だけを問題とし、本件脅迫状と内田裁判長宛書簡の平仮名「に」についても、専ら第二筆と第三筆を結ぶ連続線が第二筆と作る角度だけを問題にして、その余の要素は取り上げないまま、異筆を結論づけるその手法は、手書き文書の筆跡異同の判断過程として余りに単純直截で、その妥当性には疑問があるといわざるを得ない。また、本件脅迫状に存在する「な」の第一筆と第二筆の連綿を、請求人の筆跡にはない特徴点として挙げるが、神戸鑑定書の項でも検討するとおり、このような点は、一般に必ずしも習癖化している場合ばかりとはいえず、書き手のその時々の気分や、筆圧、筆勢などでも変化するものと考えられるのである。現に、関宛昭和三八年手紙のうちの同年一一月一二日付、同月三〇日付、一二月一七日付の各書簡の中には、「な」の第一筆と第二筆を連続させたものが存在する。したがって、右意見書の指摘の点を請求人の筆跡には存在しない本件脅迫状の筆跡の特徴として挙げるのは、相当とは言い難いのである。
 したがって、右意見書は、三鑑定の結論に影響を及ぼすものとは言い難い。

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