部落解放同盟東京都連合会

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第五 血痕等の痕跡の存否について

 所論は、新証拠として、(1)前記上田第二鑑定書、(2)前記上山第一鑑定書、(3)前記上山第二鑑定書、(4)弁護人中山武敏、同横田雄一作成の昭和五八年八月三日付報告書、(5)司法警察員福島英次作成の昭和三八年五月六日付実況見分調書、(6)司法警察員大谷木豊次郎作成の同年七月五日付実況見分調書、(7)昭和六〇年二月二二日衆議院法務委員会会議録第四号二三ないし二六頁写、(8)新聞記事写一三点、(9)静岡地裁昭和六一年五月二九日島田事件再審開始決定謄本九八、九九頁写、(10)佐藤武雄ほか「急激死亡人屍流動性血液に関する研究」信州大学紀要第三号七七〜一〇三頁写、(11)警察技師松田勝作成の昭和三八年七月五日付検査結果回答書、(12)証人上田政雄、(13)同木村康、(14)同青木利彦、(15)同上山滋太郎等を援用して、被害者の後頭部に形成された裂創からは多量の血液が流出滴下したはずであり、殺害現場や死体隠匿場所にこれが遺留されたはずであることが裏付けられるのに、請求人の自白した殺害現場(通称四本杉の付近)、死体隠匿場所である芋穴には、被害者の血液が遺留された痕跡は認められないから、殺害現場や死体隠匿場所等に関する請求人の自白内容は虚構であり、右自白を根拠に請求人を本件強盗強姦、強盗殺人等の犯人であると断定した確定判決の事実認定には、合理的な疑問のあることが明らかである、と主張する。なお、右のうち、(1)は、第一次再審請求審査手続にも提出され、判断されたものである。
 そこで検討する。

(一)五十嵐鑑定書、証人五十嵐勝爾の確定判決審における証言によれば、頭部所見として、(1)被害者の頭有髪部には、黒色頭毛を叢生し、その長さは、前頭部髪際において約一三センチであり、(2)後頭部に、生前に形成された頭皮損傷一個が存在し、その皮膚創口は柳葉状に開き、長さ約一・三センチ、幅約〇・四センチ、両創端は比較的尖鋭で、両創縁は共に正鋭―平滑ではなく、僅かに挫滅状を呈し、微少の凹凸をなし、創壁はやや不整、創洞内に架橋状組織片が顕著に介在しており、創底並びに創壁に凝血が存存し、創口周囲の皮膚面には著明な挫創を随伴せず、創洞の深さは頭皮内面に穿通せず、骨に達していないが、(3)右裂創に相当する頭蓋壁の部分に、母指頭大の頭皮下出血斑一個が存在する、というのである。

(二)所論援用の上山第一、第二鑑定書は、扼頸ないし絞頸による窒息死の場合には、頭部・顔面に多量の血液の鬱滞があるため、剖検時に頭皮の切断部及び頭蓋骨の鋸断部ならびに脳硬膜内の静脈洞の切断部から多量の血液を洩らし、顔面の鬱血、死斑の発現とも高度であるのが通例である旨、一般論を述べたうえで、五十嵐鑑定書が、「頭皮を横断開検した際、殆ど血液を洩らさず」「頭蓋骨を鋸断開検した際、殆ど血液を洩らさず」などと所見を記載する一方で、顔面の鬱血、死斑の発現ともにその程度が高いことを特記してはいないことをとらえて、本来ならば頭皮・顔面及び頭蓋骨内に鬱滞したはずの血液が、被害者の後頭部の裂創からかなり流出したことが想定され、仮に裂創の形成時期を死亡直前とすると、流出量は五〇ないし二〇〇ミリリットル前後と推定されるとし、上田第二鑑定書も、後頭部の裂創から、「かなりの血液が体外表や周囲環境等に落下したり附着する筈である」旨述べており、これらは、いずれも所論に沿う証拠であると認められる。

(三)しかしながら、五十嵐鑑定書の記載によれば、後頭部の本件裂創は、長さ約一・三センチで、創洞内に架橋状組織片が顕著に介在しており(すなわち、切断されない血管が残存している可能性を意味する。)、深さは頭皮内面に達しない程度のものであるところ、右鑑定人の死体検査に先立ち、死体発見直後にその状態を見分した大野喜平警部補の第一審及び確定判決審における各証言大野警部補作成の昭和三八年五月四日付実況見分調書にも、頭部を一周して後頭部で結ばれていた目隠しのタオルや被害者の着衣に血液が付着していたことを窺わせる供述ないし記述は認められず、添付の写真を見ても、その様子は窺われないのである。他方、右鑑定書によれば、前掲のとおり、被害者の頭部には毛髪が叢生し、その長さは前頭部髪際において約一三センチであるが、右鑑定書添付の頭部の写真を見ると、後頭部にもこれに近い長さの頭髪が密生していることが認められる。そこで、右裂創の創口からの出血は、頭皮、頭毛に附着し、滞留するうちに糊着し凝固して、まもなく出血も止まったという事態も十分あり得ることであって、一般に、頭皮の外傷では、他の部位の場合に比して出血量が多いことや、本件の場合、頭部圧迫による頭部の鬱血が生じたことなどを考慮に入れても、本件頭部裂創から多量の出血があって、相当量が周囲に滴下する事態が生じたはずであるとも断定し難い。したがって、自白により明らかにされた殺害場所、死体隠匿場所である芋穴に、被害者の出血の痕跡が確認できなくても、そのことから、直ちに自白内容が不自然であり、虚構である疑いがあるとはいえない。
 右に検討した証拠に加えて、所論援用のその余の証拠も併せて、確定判決審の依拠した証拠と共に総合検討しても、殺害現場や死体隠匿場所に関する請求人の自白の信用性、延いては確定判決の事実認定に疑いを生じさせるとはいえない。

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