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第一〇 死体の足首の状態について

 所論は、新証拠として、(1)弁護人中山武敏作成の昭和五三年一二月二四日付報告書(中山実験報告書)、(2)木村康、弁護人倉田哲治作成の昭和五四年五月二二日付「芋穴逆さ吊り」実験についての報告書(木村・倉田実験報告書)、(3)木村康作成の平成元年一二月七日付「芋穴への逆さ吊り」実験報告書(木村実験報告書)、(4)井野博満作成の同月六日付「逆さづり」における荷重の測定および損傷についての実験報告書(井野実験報告書)、(5)大西徳明作成の同年三月一〇日付「芋穴への逆さ吊り」実験被験者の筋力検査報告書(大西検査報告書)、(6)昭和五九年三月一三日警察技師医師五十嵐勝爾面会録音テープ及びその反訳(五十嵐テープ)、(7)同月一五日付埼玉新聞記事写(埼玉新聞記事)、(8)証人井野博満、(9)同木村康、(10)同大西徳明(11)同上田政雄等を援用して、請求人の自白供述のとおりに、死体の足首を縛り、縄で芋穴に逆さ吊りにすれば、足首に損傷が生じ、その痕跡が必ず残ることが裏付けられるところ、本件被害者の死体の足首には、縛って逆さに吊したことを示すような特段の痕跡は存在しないのであるから、請求人の自白は、内容虚偽の供述であることが証明され、確定判決の事実認定に合理的な疑いのあることが明らかであると主張するのである。
 右のうち、中山実験報告書は、身長、体重とも被害者のそれに見合う合成ゴム製の人体模型を用いて、足首を縛り、逆さ吊りして実験したところ、縄が足首にくい込んで痕跡が残ったから、死体に損傷ができることは確実であるというもの、木村・倉田実験報告書は、表面を合成ゴムで固めて塗装した身長、体重とも被害者のそれに見合う人形を使い、両手首を後ろ手に縛り、揃えた足首をソックスの上から細引紐で縛り、藁縄を細引紐に継ぎ、徐々に人形を逆さ吊りにして芋穴に下ろし、次いで引き上げて実験した結果、足首の緊縛部分には強く凹んだ圧痕が形成され、死体の場合には表皮剥脱や凹痕が生ずることが推測されるというもの、木村実験報告書は、第一審の検証結果を基にして、本件芋穴と同じ深さ、形状の模型を作り、男性四名、女性一名の計五名を被験者とし、ソックスの上から木綿の細引紐を結び、滑車を用いて芋穴の模型に吊り下げ、吊り上げを行って足首に荷重し、各被験者の足首の状況を観察する実験の結果、被験者全員の足首に強度の圧痕が形成され、被験者の女性と男性の各一名の右足首、男性三名の両足首には、それぞれ表皮剥脱等の状況が観察されたというもの、井野実験報告書は、木村実験報告書の各被験者の足首にかかった荷重を測定するとともに、ウレタンフォームなどで肉付成形をし、さらにラテックスゴムを塗り合わせるなどした、被害者の身長、体重に見合う人体模型を用意し、発見時の死体と同様、両手首を後ろ手に手拭で縛り、足首を揃えてソックスの上から木綿細引紐で縛り、実際と同じ寸法の藁縄をつないだ上、大西検査報告書にあるとおり、筋力の優れた被験者が、本件芋穴と同じ深さの模型を使用し、右手に巻いた縄で人形の吊り下げ、吊り上げの実験を行い、人体模型の足首にかかる荷重と足首に生じる損傷との関係を検討した結果、請求人の自白どおりとすれば、死体の足首には、木村実験報告書以上の損傷が生じたことが推認されるというものである。
 検討するに、第一次再審請求に対する特別抗告棄却決定が夙に判示するとおり、死体の吊り下げ、吊り上げの態様に関する自白内容は、ありのままを述べた正確なものとは、必ずしもいえないと認められるのである。したがって、自白内容に相応する事態を想定して再現実験を行い、その実験結果から、芋穴へ一時死体を隠匿した旨の自白内容の真偽を論定することは、ほとんど不可能に近い難事であるといわざるを得ない。所論援用の各報告書が実験の基とした自白内容自体、実際の状況を細部にわたるまで如実に述べたものとは必ずしも言えない以上、これら報告書の実験結果から、発見された死体の足首に吊した痕跡ないし損傷がないのは不自然であると結論し、そのことから直ちに、本件芋穴に死体を一時隠匿した旨の自白は虚偽の疑いがあり、確定判決の事実認定に合理的な疑問が残るとまではいえない。
 所論援用の証拠をすべて併せて、確定判決審の関係証拠と総合検討しても、確定判決の事実認定に合理的な疑問を抱かせるものとはいえない。

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