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(五)、宇野鑑定書の新規明白性と原決定の誤りについて

 原決定は、宇野鑑定が、脅迫状には、「え」の表記について「江」と「え」が使われ、「エ」はまったく使われていないのにたいして、請求人の上申書等においては、すべて片仮名の「エ」が使われているという指摘(同様の相異点の指摘は弁護人提出の日比野鑑定等でもなされている)に対して、「本件脅迫状の書き手は、『え』と表記すべき場合に、音の共通する『え』『江』『エ』のうちから思いつくまま用いる傾向があるところ、本件脅迫状では、偶々『エ』は用いずに『え』『江』を用いたとも考えられる」として、宇野鑑定の指摘をしりぞけているが、何ら証拠にもとづかない決めつけというほかない。
 脅迫状の筆者が、「え」と表記すべき場合に片仮名の「エ」も用いる傾向があるが偶々用いなかっただけだなどということは何の根拠もない推測である。この論理でいけば、筆者は「え」と表記すべきところに、「ゑ」「恵」などから思いつくままに用いる傾向があるが、たまたまそれを用いなかっただけだと言うことも可能である。このような詭弁で、脅迫状と請求人自筆の上申書等の表記の相異点をごまかすことは許されない。
 また、六月二十七日付のN宛手紙については、原決定自身も引用するように、検察官原正が控訴審第一七回公判で「脅迫状を見せたことはあると思う」と認めているところからしても、作成された状況について種々の問題があり、逮捕後一ヵ月を経て、請求人自供後の取り調べ段階で作成されたN宛手紙を、表記の類似を示すものとしてとりあげることは適格でなく、原決定が、N宛手紙に「N江さく」との表記が見られることをもって、脅迫状との類似点があるとすることは誤りである。
 また、宇野鑑定は、脅迫状が「や」の音に、すべて片仮名の「ヤ」と表記している(「さのヤ」「ころしてヤる」)のに対して、上申書が平仮名の「や」を用いている点に注目し、「一般に、平仮名を使っているところに、特定の文字だけ片仮名にするのは、普通には考えにくいこと」であり、「特殊な表現効果を狙う場合か、……用字の癖のような場合に、そういうことが現れる」として相異点を指摘している。原決定は、この点について、「二個の用例だけでは、宇野鑑定書が指摘するように書き手の用字癖であるとか、特殊な効果を狙つた用字であるとか、ただちに決めてかかることはできない」としているが、片仮名「ヤ」の使用は、確定判決が依拠する三鑑定の一つである関根・吉田鑑定自身も「固有の特徴」としたものであり、請求人の供述調書添付図面中においても、すべて「や」が使用されていることからしても、原決定が仮名使用における重大な相異について判断を誤ったことは明らかである。
 さらに、宇野鑑定が片仮名「ツ」の使用について、催音に「ツ」と書く例は相当数見出されることを具体例を示して指摘した(同様の指摘は、弁護人提出の新証拠の一つである戸谷克己意見書も具体例を示して指摘した)のに対して、決定は「このような見解には与することはできない」と述べるだけで、促音の「ツ」の表記に稀少性があるとは言えないとの指摘に何ら答えていない。脅迫状においてはすべての促音の表記に 「ツ」が使用されているのに対して、上申書には三箇所のうち一箇所だけ促音が見られ、脅迫状写しにおいてはまったく促音の表記が見られないことからも、事件当時の請求人が促音の表記が身についていなかったと判断され、この点も筆跡が異なることを示す相異点であるが、その点について決定はまったく無視する誤りを犯している。
 このように、原決定は、三鑑定およびその信用性をつきくずした宇野鑑定について判断を誤ったものであり、新旧証拠の総合評価を正しくおこなったものとはとうてい言えず、破棄されなければならない。

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