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第一四、車両との出会いについての原決定の判断の誤り

         

 原決定は、新証拠を確定審の関係証拠と併せ検討しても、捜査官が暗示や誘導によって、鎌倉街道で自動三輪車に追い越されたことや被害者方付近に小型貨物自動車が駐車していたことを請求人に供述させて、あたかも、その供述にいわゆる秘密の暴露があったかのように作為したと疑われる事跡は窺われず、弁護人援用の証拠は確定判決の認定に影響を及ぼすものとは言い難いとしている。
 しかし、確定判決は、「被告人の自白に基づいて調査した結果」「被告人が五月一日N家へ脅迫状を届けに行く途中鎌倉街道で追い越されたという自動三輪車はY・S運転のものであったこと、また被告人がN方近くの路上に駐車しているのを見かけたという自動車はO・Tの車両であることが判明し」たというのであるが、捜査当局が捜査の常道に従い、事件当日の被害者宅周辺の人および車の動きについて聞き込み捜査を行えば、本件発生後間もなく知り得たはずの事実である。捜査当局が聞き込み捜査をしなかったとするほうが甚だ不自然であり、現に確定審においても、捜査官の証言(第四三回公判斉藤留五郎、第四九回公判福島英次)によって、事件発生直後から聞き込み捜査がおこなわれたことが明らかにされている。
 そして、O・T関係の新証拠は、いずれもO・Tの事件当日における動きが、当然捜査当局の聞き込みの範囲内にあったことを示している。特にO・Tが路上に駐車をしてから訪れたM・S方は被害者方より東へ一軒おいた至近距離にある。
 また、Y・S関係の新証拠である捜査報告書はいずれも請求人の自供後に作成されたものであるが、Y・Sとその同乗者O・Y、T・Sに到達した経緯が記載されておらず、自供前から捜査当局に判明していた事実を示している。すなわち、一連の捜査報告書の内容は、自供後の裏付け捜査の結果はじめてこれらの事実が発見されたとするには、捜査過程に飛躍があり過ぎてきわめて不自然な経緯を示している。Y等の供述調書は、作成日付のみを見れば請求人の供述後であるが、事件発生直後の聞き込み対象者となっていたと考えざるを得ないというところにこそ証拠としての意味があることは明らかである。
 被害者宅へ脅迫状を届けたことに関する請求人の供述自体も不自然な点が多く、真犯人が自らの記憶を進んで供述したものとは到底思われない。そもそも、鎌倉街道を経由するよりもはるかに早くかつ安全なコースをとらず、最も人目につきやすい道路をわざわざ選び、被害者の自転車に乗って走るなどということはいかにも不自然である。また、なぜそういうルートをとったのかについて、請求人はその理由をのべることさえできていない。しかも右供述は、請求人が三人共犯を述べていた六月二一日になされたものであって、被害者宅へ脅迫状を届けたコースに関する供述のみが真実であったとは到底考えられない。この時期に出された事実が自白の信用性を裏付ける根拠になるとすること自体が、捜査当局があらかじめ知っていた事実を請求人に供述させたという合理的疑いを導き出している。
 Oの駐車状況に関しても、六月二一日付員面調書には小型の貨物自動車が東向きに停まっていた旨の記載があるが、まさに犯人が脅迫状を差し入れようとする際の精神的緊張や雨中であったこと、暗くなっていた客観状況からいつて、直接関係のない周辺に対する知覚はきわめて不十分なものに止まった筈である。停車車両に気付き人に見られる可能性から動揺した等、真犯人であれば当然に配慮するべき事柄に関してリアリティを感じさせる内容がまったく述べられていないにもかかわらず、停車車両の状況に関してのみ詳細な供述がなされているのはかえって不自然であり、捜査官の暗示誘導の介在を強く疑わせる。
 以上述べたとおり新旧証拠が総合評価されるならば、O・T、Y・S証言がいわゆる秘密の暴露にあたるものとすることには重大な疑問がある。聞き込み捜査の経過を一切検討することなく、これらを自白の信用性を裏付ける根拠の一つとなり得るものとし、捜査官による暗示や誘導の存在を否定した原決定の誤りは明らかである。

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