2000年1月28日
東京都知事 石原慎太郎
様
東京都人権施策推進指針に対する要望書
被差別者が誇りをもって生きていける社会をめざした「指針」を
はじめに
「東京都の今後の人権施策のあり方について」(以下「提言」)をふまえた「東京都人権施策推進指針」(以下「指針」)づくりが開始されていると思いますが、(1)優先的に速やかに実施すべきもの(2)考え方含めて修正が必要なもの(3)追加すべきものがあります。
以下の通り、要望いたしますので、差別の現実がどれほど被差別者を苦しめているかを基本にすえ、被差別当事者の立場に立った「指針」を策定していただきたい。
1.「指針」策定過程に関わる要望
東京都人権施策推進指針は「人権施策推進のためのあり方専門懇談会」の提言を踏まえて、個別人権課題への対応を含めた人権に関する具体的施策を示すものである。この策定にあたっては、具体的課題に関する被差別当事者の意見の反映及び策定過程の公開が不可欠である。このような観点で、策定過程に関わって以下の3点を要望する。
(1)行政とは別の「委員会」や「フォーラム」を設置し策定過程に被差別当事者が参画できるシステムを確立すること。
(2)策定過程についてはインターネットでその作業経緯を公開するなど公開性を確保すること。
(3)「指針」素案を公開し全都民に意見を求め反映すること。特に、具体的な施策や個別人権施策については、被差別当事者団体と協議し意見を反映すること。
2.基本理念等に関わる要望
「提言」の「東京都における人権状況」及び「基本姿勢と考え方」に関わって、東京都がおこなってきた具体的差別について触れる必要がある。また、差別撤廃の重要性や行政の責任をあいまいにしてはならない。このような観点で基本理念に関して、以下の5点を要望する。
(1) 行政がおこなった差別事件も含め具体的な差別事件をとりあげ、「差別撤廃が重要課題であること」「差別撤廃は人権確立の基礎であり、被差別者が誇りをもって生きている社会の実現なくして人権社会の確立はないこと」を基本理念で明記すること。
(2)「差別を撤廃し、被差別者が誇りをもって生きていける社会づくりを基礎とした人権社会の建設」を「指針」の目的とし、その達成のための施策を計画的に推進することが東京都の責務であることを明記すること。及び、「自律への配慮」は民間活動と行政活動の機能分担であり行政責務と混同しないこと。
(3) 女性、子ども、高齢者、障害者、被差別部落、アイヌ民族、外国人、在日韓国・朝鮮籍者、レズビアン、ゲイなど性に関する被差別者、HIV感染者、医療被害者、犯罪被害者など個別人権課題についての差別の現実と行政課題を明記すること。
(4) 生活、就労、教育、産業、環境など差別の実態を解決する緊急的な特別措置の必要性を明記し、個別人権課題ごとに「事業計画」を樹立すること。
(5) 被差別当事者団体が差別撤廃、人権確立に果たしてきた役割と成果を承認し、「被差別当事者団体がおこなう自主活動への支援」を「基本的考え方」に明記すること。
3.「救済・保護」「啓発・教育」「支援・助成」「具体的施策推進」に関わる要望
「提言」の「人権施策のための観点」(3つの施策)「人権施策の具体的提示」「具体的人権施策の推進にむけて」の項目に関わって、責任担当機関(部署)を明確にし、被差別当事者団体と連携した推進体制が必要であり、また、計画的な施策実施が必要である。このような観点で、各項目ごとに要望する。
(救済・保護)
(1) 被差別当事者団体がおこなう相談・救済・保護活動に対して助成制度など支援制度を確立すること。
(2) 被差別当事者団体と連携し、当事者相談員制度の確立含めた「人権に関わる地域支援体制」を確立すること。
(3)「現行施策の充実、拡充」について、被差別当事者団体と充分協議し、「拡充」の具体的計画を示すこと。
(4)「人権侵害に対する新たな調整・調停機関の設置や具体的な救済・保護の手法等」について、「人権条例」や「規制条例」も含めて、「引き続き検討する」具体的な計画を明記すること。
(啓発・教育)
(1) 被差別当事者団体がおこなう啓発・教育活動への支援について具体的な実施計画を明記すること。
(2)「人権文化が支配する地域社会作り推進計画」(仮称)を樹立すること。その際、被差別当事者団体の意見を聞き反映するシステムを必ずつくること。
(3)「啓発拠点」を個別人権課題ごとに設置し、被差別当事者(団体)の自主活動の支援を最優先におき、設計・機能・使用料など総合的な支援策を確立するとともに「啓発拠点施設の設置条例」にも具体的に反映すること。
(4)「人権に関する知識、技能、感覚や意識、態度の育成」にむけ、個別人権課題ごとに、被差別当事者団体と充分協議し、社会・学校教育における「個別人権課題ごとの人権教育推進計
画」を樹立すること。
(5)「都の諸機関における施策」について、機関ごと、職場ごとの「被差別当事者の立場に立った人権行動マニュアル」を早期に作成すること。その際、被差別当事者団体の意見を必ず聞くこと。
(支援・助成)
(1)「人権関連ビジネス機構」など人権を経済活動に位置づけるにあたっては、被差別当事者団体を軸にした連携体制を必ず確立すること。
(2)「住居の確保」にあたっては、被差別当事者団体と充分協議し、民間賃貸業者への施策と同時に都営住宅における対策を確立すること。
(3)「雇用における差別撤廃」は中期的課題とせず、早急な対策として「雇用差別撤廃計画」を樹立すること。
(具体的な人権施策推進)
(1)「指針」の具体的な推進にあたっては、「発言のためのフォーラム」(仮称)などを設置し、「被差別当事者(団体)の政策決定への発言の場を保証すること。
(2) 「人権施策に関する評価・点検を怠らないような制度」を早急に確立すること。その際、「被差別当事者(団体)の意見が施策に反映できるシステム」と「個別課題ごとの定期的な実態調査」をその制度に組み込むこと。及び、東京都のすべての施策について、「被差別当事者の立場にたった人権基準」を設け、各施策被差別当事者の立場に立っているかどうか、定期的に点検する制度を確立すること。
(3) 個別人権課題ごとに、差別を撤廃するための施策を総合的に推進する(総合計画樹立、庁内各機関との調整など)責任機関(部署)を明確にするとともに、被差別当事者団体との「協議機関」(例.同和対策協議会など)を設置すること。
4.個別人権課題別の要望
「指針」では、個別人権課題について基本課題と具体的施策を明らかにする必要がある。このような観点で個別課題ごとに要望する。
(アイヌ民族)
(1)アイヌ民族(団体)との協議機関を設立し、「アイヌ民族差別撤廃計画」を樹立すること。
(2) 首都圏のアイヌ民族の文化継承のための施策の必要性を明記し、そのための施設(生活館)及び「カムイノミ」「ヌササン」「イオルの再生」のための場所を確保すること。
(3)「アイヌ民族学校」の設立。及び、学校教育のカリキュラムに組み込むこと。
(在日韓国・朝鮮籍者)
(1)外国人一般に解消せず、独自の歴史性と実態を認め、在日韓国・朝鮮籍者(団体)との協議機関を設立し、高齢者への聞き取り調査含めた実態調査を実施し、「在日韓国・朝鮮籍者差別撤廃計画」を樹立すること。
(2)民族(韓国・朝鮮)学校に対する差別処遇を改善すること。及び日本の公私立学校に多くの韓国・朝鮮籍者の子どもが通っていることを踏まえ民族共生教育指針を策定すること。
(3)地方公務員採用での国籍制限と差別的昇級制度を撤廃すること。
(4)「世論調査」の対象に在日外国人が排除されてきた現実を受けとめ、在日外国人が都民であることを明確にし、それを法的、制度的に位置づけることを「指針」で明らかにすること。
(外国人移住労働者)
(1)外国人移住労働者団体及び支援団体との協議機関を設置し、「外国人移住労働者に対する差別撤廃計画」を樹立すること。
(2) 相談・救済窓口及び医療機関をはじめあらゆる行政機関において、出版物、案内版は多言語するとともに、専門職員を配置すること。
(3)当事者団体や支援団体等と連携し、各種制度を外国人が利用しやすいものに(外国人に直接情報が届く)改善すること。
(障害者)
(1) 条例・規則・運用面まで含めた障害者排除規定を洗い出し、その妥当性を障害当事者ととも
に検証する場を設けること。
(2)閉鎖空間である施設や病院は人権侵害の温床となっている現状を改革するため、その開放化を進めるとともに、行政や施設から独立した市民オンブズパーソンを義務付けること。
(3) 義務教育及び高等教育における統合教育の推進と設備・人員の配置をおこなうこと。
(4)建築物・移動手段について、バリアフリーから誰でも使えるユニバーサルデザイン化へ移行し、「福祉のまちづくり条例」に反映すること。
(女性)
(1) 東京ウイメンズプラザについて、被差別当事者が活用しやすいように掲示物規制や使用料金などの見直しをおこなうこと。
(2)男女共同参画センターがバックアップしながら24時間体制のシェルターを最低区市町村に1つをめざし増設すること。
(3)一時預かり可能な保育園設置など女性の多様な働き方を支援する制度を確立すること。
(4)男女混合名簿の実施など学校をジェンダーフリーにする「推進計画」を樹立すること。
(レズビアン、ゲイ、性同一性障害の当事者や自己の性別に不快感を伴う人々、インターセックス)
(1)労働、学校教育、社会教育、警察、青少年対策、DV等の暴力対策の各機関において、専門相談員の設置を含め、同性愛者の相談に対応する体制をつくること。
(2)学校、職場、公務員、図書館や女性会館等の社会教育施設などで、啓発・教育の具体的計画を作成・実施するとともに、啓発・教育の拠点整備をおこなうこと。
(3) 同性間パートナーシップ登録制度の導入などにより、異性間と同性間のパートナーシップの間に存在する格差を解消すること。例えば、同性間パートナーや性同一性障害の当事者等を含むパートナーに都営住宅の入居資格を付与すること。
(4) 同性愛者に対する差別を解消し、平等化を促進するため当事者団体との恒常的な協議期間及び各部署との協議・調整の場を設置すること。
(5)性に関する自己決定権を奪われがちなインターセックスに対して、当事者との協議のもとに医療ガイドラインを作成すること。
(被差別部落)
(1)条例制定を含め差別調査等悪質な人権侵害を規制する方法について検討する機関を早期に確立すること。
(2)住宅、教育(奨学金)、医療、産業振興など現在おこなわれている同和対策事業について、政治的配慮を優先させることなく、実態調査含めた「評価・点検」をおこない、継続性の維持をはかること。
【要望書提出団体名】
東京都人権施策推進指針対策連絡会
日本婦人会議東京都本部 議長 井上好子
アイヌウタリ連絡会 事務局長 長谷川修
在日韓国民主統一連合東京運営委員会 代表 李 義茂
在日コリアン人権協会 会長 徐 正禹
全国障害者解放運動連絡会議関東ブロック 代表幹事 矢内健二
障害者の生活保障を要求する連絡会議 代表 三沢 了
動くゲイとレズビアンの会 理事 稲場雅紀
部落解放同盟東京都連合会 執行委員長 石居秀夫
外国人と共に生きる大田・市民ネットワーク 代表 鈴木昭彦
労働組合江戸川ユニオン・移住労働者と連帯する全国ネットワーク 代表 宇田川正宏
部落解放基本法制定要求東京実行委員会
会 長 東京都立大学名誉教授 小沢有作
副会長 東京人権啓発企業連絡会 専務理事 富岡勇二
副会長 「同和問題」に取り組む宗教教団東京地区連帯会議 議長 竹内謙太郎
副会長 日本労働組合総連合東京都連合会 会長代行 木村智佑
副会長 東京都同和教育研究協議会 会長 谷口滋
副会長 部落解放同盟東京都連合会 執行委員長 石居秀夫
事務局長 部落解放同盟東京都連合会 書記長 長谷川三郎
理事 部落解放同盟東京都連合会 執行委員 鈴木信孝
理事 東日本部落解放研究所 事務局長 藤沢靖介
理事 東京都同和教育研究協議会 常任委員 木川恭
理事 日本労働組合総連合東京都連合会 伊藤仁
理事 東京地方公務員関係労働組合連合会 副議長 吹上洪
理事 東京人権啓発企業連絡会 「基本法」推進本部長 町山圓照
理事 「同和問題」に取り組む宗教教団東京地区連帯会議 事務局長 田光信幸
理事 日本婦人会議東京都本部 副議長 布施由女