狭山事件の第43回三者協議が6月18日、東京高裁で開かれた。
三者協議に先立って検察官は5月29日、弁護団が提出した万年筆に関する新証拠(下山第2鑑定、原・厳島鑑定、浜田鑑定)に対する反論の意見書を提出した。しかし、その意見書は合理性のない理屈に終始し、とりわけ発見万年筆は被害者のものではなく偽物であることをインクの構成元素から証明した下山第2鑑定に対しては、インクの鑑定もできずに科学的な反論はまったくできず、推論や憶測、可能性を積み重ねてインクの違いをごまかし、確定判決や棄却決定の判断の正当性を述べているが根拠は不十分である。
弁護団も6月15日付で、再審請求補充書と第3次再審段階で226点目となる新証拠を提出した。第3次再審で証拠開示された腕時計についての捜査報告書を新証拠にしたもので、被害者の腕時計を捨てたという石川さんの「自白」後に行なわれた捜索の報告書である。
被害者のものとされている腕時計は、1963年7月2日に地元住民が散歩中に発見したとされているが、警察はその直前の6月29日、30日の2日間にわたって複数の警察官による捜索をしていた。証拠開示された7月1日付の捜査報告書には捜索した範囲が図面上に記載されており、腕時計発見場所の茶垣は警察官が捜索した範囲内であったことが明らかとなった。警察官の十分な捜索体制による二日間にわたる徹底した捜索で発見されなかった腕時計が、その直後にすでに捜索された場所から発見されという経過は極めて不合理・不自然で、自白の真実性を補強するものではなく、秘密の暴露ではないと主張した。
今回の三者協議において検察官は、スコップに関する新証拠(平岡第2鑑定)、死体運搬自白の虚偽を示す新証拠(流王報告書)への反論を提出すると述べ、弁護団は、それらに全面的に反論していくとともに、現在準備中の最新技術を駆使した科学的な足跡鑑定、取調べテープ分析鑑定、福江鑑定に対する検察側意見書に対する反論などを今後提出する予定であることを裁判所に伝えた。
狭山事件の担当裁判長が交代
何としても現在の第3次再審において事実調べを実施させ再審決定を勝ち取るべく世論を集中してきた東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長が6月24日付で定年退官した。後任には、最高裁調査官、東京高裁判事、東京地裁裁判長などを経て新潟地裁所長であった大野勝則・裁判官(61歳)が就任した。
第3次再審では裁判長の証拠開示勧告もあり、取調べ録音テープや逮捕当日の上申書など、重要証拠の一部が開示された。弁護団はその科学的分析・実証から供述心理鑑定、筆跡・識字能力鑑定など、現時点までに226点の新証拠を裁判所に提出し、石川一雄さんの無実を科学的に証明してきた。中でも「脅迫状は99・9%以上の識別確率で石川さんではない別人が書いたものと判断するのが合理的」と結論した福江鑑定、「発見万年筆は被害者のものではない、偽物」であることを証明した下山第1・第2鑑定は極めて重要であり、そして決定的な新証拠である。
狭山事件の再審請求では、証人調べや鑑定人尋問、現場検証などをはじめとする事実調べが一度も行なわれていない。事実調べが行なわれた再審裁判は必ず再審開始決定が出され、逆に行なわれなかった裁判は例外なく請求を棄却されている事実は極めて重要だ。「事実調べなくして、再審なし!」を合言葉に、事実調べ要請ハガキ運動を強化・拡大し、大野勝則裁判長に向けて、石川無実!事実調べ即刻実施!再審開始!の世論を集中しよう。