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狭山事件-最新情報

            

狭山弁護団声名

          

満身の怒りをもって抗議する

           

 05年3月16日に最高裁第1小法廷(島田仁郎裁判長)が出した狭山事件に関する特別抗告棄却決定について、このほど狭山弁護団はその内容を批判する抗議声明を発表しました。以下に紹介します。


2005年3月18日
狭山事件再審弁護団

(1)3月16日付で、最高裁第1小法廷(島田仁郎裁判長)は、狭山事件の第2次再審請求で特別抗告申立を棄却する決定をおこなった。今回の棄却決定は、弁護団との面会の約束を破っての抜き打ち的な決定であり、狭山事件再審弁護団は、満身の怒りをもって抗議の声明を明らかにする。
 弁護団は、再審請求棄却決定とそれに対する異議申立を棄却した決定が、確定判決において、証拠の主軸とされた脅迫状の筆跡について、これまでの認定を変え、申立人が、事件当時もある程度書けたとするあらたな認定を事実調べもなく持ち出したため、それに対する反論として、教育学者らの協力を得て、あらたな筆記能力に関する意見書を提出する旨、最高裁に伝えていた。そして、3月24日に、新証拠、補充書を提出し、主任調査官に面会することを申し入れたところ、最高裁は面会するとの返答をしていたのである。
 ところが、この約束を破って、最高裁は3月16日付で抜き打ち的に棄却決定を出し、驚くべきことに普通郵便で主任弁護人あてに決定文を送付しているのである。弁護団に棄却決定が届いたのは18日であった。あまりに不当な、弁護側の主張を聞こうともしない一方的なやりかたに慄然とするばかりである。最高裁は真実を恐れ、真実から逃げているだけであるといわざるをえない。

(2)棄却決定は、石川さんが脅迫状を書いたというが、弁護団は19通もの専門家の鑑定書と2通の弁護団報告書を提出している。それを裁判所が、まったく事実調べをしないで、筆跡が一致したとか、当時の石川さんに脅迫状程度の字・文章は書けたなどと、一方的に判断することは許されない。識字学級生の書き取り実験にもとづいて、石川さんが非識字者であり、脅迫状作成者と用字・用語、表記における明らかな相異があることを指摘した意見書について棄却決定はまったく触れていない。

(3)第2次再審では、栃木県警本部鑑識課員として29年間、犯罪鑑識にたずさわっていた齋藤保・指紋鑑定士が、専門知識と経験にもとづく分析によって、本件封筒の「少時」記載部分は自白のようにボールペンではなく万年筆で書かれているという鑑定結果を出されていた。また、「少時」の背景に、インク消しで消された痕跡があり、万年筆で書かれた痕跡であるという鑑定書も出されていた。東京高裁は、これを「独断」「憶測」としてしりぞけたので、弁護団はあらたに元福島県警鑑識課員である齋藤正勝・指紋鑑定士、大阪府警の科学捜査研究所で文書鑑定をされていた奥田豊鑑定人による2通の鑑定書を昨年10月29日に提出した。2人の元鑑識課員も、齋藤鑑定人の結論と一致して、「少時」が万年筆で書かれていると鑑定されたからである。ところが、棄却決定は、「肉眼で観察しても『少時』と『様』が別異の筆記用具で書かれているとは認め難い」としてしりぞけ、齋藤正勝鑑定書にも奥田豊鑑定書にはまったく触れていない。万年筆でなくボールペンというのであれば、少なくとも鑑定人の意見を聞くべきである。

(4)「少時」の周辺に万年筆使用の痕跡である「2条線痕」があることは歴然としていて、弁護団は写真も出している。にもかかわらず、棄却決定は「封筒の現物を観察しても、そのような痕跡と認められるものであるか、必ずしも判然としない」というだけである。最高裁は事実を事実として見ることさえできなくなっているのだ。
 はたして5人の最高裁判事は東京高裁に保管されている証拠封筒を本当に「肉眼で観察」したのであろうか。「判然としない」のであれば、なぜ、専門家である元鑑識課員3名の鑑定人の意見を聞こうとしないのか。
 さらに、棄却決定は、「2条線痕を含む筆圧痕が存在するとしても、(石川さんが)本件前の近接した時期に自分自身の万年筆及びインク瓶を所持していた公算はかなり高い」などと言い出している。しかし、弁護側の反論の機会も証拠調べもまったくないままに、供述調書だけを根拠に、このような一方的な決めつけによって、あらたな有罪の事実認定をすることなど再審の理念からも絶対に許されない。捜索差押調書などの記録上も、石川さんの家に万年筆がなかったことは明らかである。

(5)石川さんの自白通りであれば脅迫状・封筒から指紋が出るはずだが、石川さんの指紋がないという弁護側鑑定の指摘に対しては、自白では手袋とかはしていないことがはっきりしているにもかかわらず、棄却決定は、「自白に出ていないからといって、指紋付着を防ぐ処置を講じていなかったとも決めつけるわけにはいかない」とまで言うのである。石川さんを犯人と決めつけたうえでの、推測と独断による認定いがいの何者でもない。
 また、脅迫状・封筒には手袋の痕跡があるという齋藤鑑定人による指摘に対しても、棄却決定は「写真を見ても判然としない」としたうえで、「かりに布目痕が存在するとしても、その成因は様々な可能性が考えられる」などと言い出している。弁護団の主張を完全に否定できないために、「2重否定」や「不可知論」で逃げるだけである。このように言い出せば、すべての新証拠は可能性によって切り捨てられることになる。

(6)万年筆についても、徹底した警察による2度の家宅捜索の後に発見された経過の疑問に対して、「鴨居奥は、さっと見ただけでは万年筆の存在が分かるような場所とは言えず、見落とすこともあり得る」として疑問をしりぞけているが、とうてい納得できない。十数人のベテラン刑事たちは、2時間以上かけた捜索で「さっと見ただけ」だとどうして言えるのか。捜査官らの証人尋問も現場検証もせずに、「さっと見ただけでは分からない場所」「見落とすこともありうる」などと決めつけることは許されない。
 このような判断を、「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則を適用したと最高裁はいうのであろうか。すべて、有罪維持の前提のうえに、裁判官が勝手な、市民常識からかけ離れた推測、決めつけを重ねているだけである。

(7)弁護団は、一昨年亡くなられた山上益朗弁護士を先頭に、19通の筆跡鑑定、齋藤一連鑑定等の弁護側が提出した数々の新証拠と旧証拠を総合評価し、自白の信用性についての全面的な再検討、再評価をするべきであることを、くりかえし最高裁に訴えてきた。しかし、棄却決定は、新旧証拠の総合評価ではなく、まったくの孤立評価によって新証拠を個別に排斥し、自白の一部をつまみ食い的に利用している。しかも、第1次再審における新証拠も、異議審、特別抗告審における新証拠もすべて「不適法」として、都合の悪い新証拠はまったく触れてさえいない。一方で、今回の棄却決定は、有罪を維持するために、確定判決の認定も関係なく、みずから検察官になったごとくに、あらたな有罪の認定を、一度の事実調べすらやることなく、一方的に持ち出し、臆面も無く認定変更をおこなっている。このような不意打ち的な認定は断じて許されない。
 棄却決定が、「新旧証拠を総合的に評価して確定判決に合理的疑いが生じれば再審を開始する」とした最高裁の白鳥決定、財田川決定という判例に反し、「無辜の救済」という再審の理念をふみにじったものであることは明らかである。
 このような最高裁による暴挙を弁護団は、断じて認めることはできない。裁判所の判断がいかに市民的な判断とギャップがあるかがますます明らかになっただけである。狭山事件の裁判に対する批判は、さらに幅広い市民的運動として高まっていくし、かならず最後には真実が明らかになると確信する。弁護団は、不当極まる特別抗告棄却決定を徹底的に批判し、石川一雄さんとともに、真実を明らかにするために、必ず再審開始をかちとり、雪冤をはたすべく、第3次再審請求を申し立てる決意を固めていることを表明する。

          

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